大槻ケンヂ『くるぐる使い』角川文庫 1998年

 中学・高校生といった少年少女を主人公にした,作者の言葉によれば「超常現象青春小説」5編よりなる短編集です。

「キラキラと輝くもの」
 妹・麗美子の精神がヘンテコな状態になった。彼女はUFOにさらわれたという…
 しだいに壊れていく少女の心の描写が怖いです。ただラスト付近で明かされる一種の“真相”が,あまりに解説じみてしまっているので,興ざめしてしまいます。
「くるぐる使い」
 「わたしは本当に外道なんだ…」老人はゆっくりと懺悔を始めた…
 この作者は歌手であるためでしょうか,言葉使いに一種独特の魅力があります。たとえば「くるぐる」というネーミング。最初タイトルを見たとき「どういう意味かな?」と思いましたが,本編を読んでその意味を知り,その言語感覚に驚きました。あるいはまた,繰り返しを多用することによって生じる不可思議な幻惑感。とくに,
「旗旗旗旗旗旗旗旗旗旗旗旗旗旗旗!」
というところには眩暈のようなものを感じました。
 読んでいて「あ,あの映画に似ているな」と思っていたら,やっぱり・・・・。
「憑かれたな」
 15歳の誕生日,博子は“悪魔”に取り憑かれた。<オール・ジャンル・エクソシスト>滝田一郎が悪魔祓いに挑む!
 超常現象を“理”に落とし,それをさらに反転させるオチ。最後のオチは見当つかないこともありませんが,その描き方が秀逸です。とくに「すると,もう少し笑いたくなった・・・」という一文にゾクリときました。
「春陽綺談」
 退屈な日常に飽き,友人もなく孤独な毎日を送る新田春陽(はるひ)は,ある日,不思議な男から“異界”へと招かれるが…
 この作品には,少年の壊れていく心を描きつつ,それを“解釈”する滝田六郎というキャラクタが出てきます。そういった点で「キラキラと輝くもの」と似たようなストーリィ展開の停滞感が感じられてしまいます。
 ただ滝田六郎というキャラクタがなかなか魅力的です。超常現象を“体験”する少年少女と同じような少年時代を過ごし,彼らを愛し,危惧し,焼酎をつめたナップザックを背負って,
「オレが現実の中でヘラヘラ生きていく方法を教えてやるからな」
と,少年のもとに走る彼は,作者自身の姿なのかもしれません。
「のの子の復讐ジグジグ」
 いじめられっ子ののの子。彼女は臨死体験を経たのち,“世界”への復讐を企てる…
 梯子を掛け,人を登らせ(登るようにけしかけ),最後に梯子をはずす,というお話。ブラック・ユーモアに満ちた作品です。主人公が語る「壺」のイメージが不気味です。

 最後に内容と関係ないのですが,高橋葉介の表紙が,なんとも不気味でいいです。タイトル通り,頭の中が「くるぐる」します。

98/01/26読了

go back to "Novel's Room"