トーマス・オーウェン『黒い玉 十四の不気味な物語』東京創元社 1993年

 古本屋で見つけ,副題にひかれ,読んでみました.作者はベルギーの人のようです.もともと30編からなる幻想短編集より,14編が翻訳されたようです.オーソドックスな幽霊譚(「雨の中の少女」「亡霊への憐れみ」「旅の男」)もあれば,この世の「悪意」のようなものを描いたもの(「父と娘」「謎の情報提供者」),不条理な変身譚(「黒い玉」「変容」),吸血鬼譚(「鉄格子の門」),ブラックユーモア風(「売り別荘」)など,けっして今風のホラーみたいな刺激はありませんが,日常的な生活の中に潜む,なにやら得体の知れないものを,たんたんとした文章でつづっています.

 お気に入りは,「バビロン博士の来訪」という1編で,自分の家に幽霊(?)が住んでいることに気づいた男が,たまたま知り合った男を家に引き込み,泊まってもらうことにします.ところが,翌朝,男の姿はなく,玄関の鍵も内側からしまったままでした.その男が幽霊だったのでしょうか?その後,その家ではなにも不思議なことは起こらなくなりました.が,最後の一文が奇妙な味わいがあります.

「だがしかし−こんなことを言うべきかどうかわからないが−わたしは今,まるで見捨てられてひとりぼっちになったような気がしている.」

 なかなか味わい深い短編集でした.

97/02/27読了

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