岡嶋二人『クリスマス・イヴ』中公文庫 1991年

 友人たちと,人里離れた別荘でクリスマス・イヴを過ごそうとやってきた喬二と敦子。しかし彼らが訪れた別荘は荒らされ,友人夫婦の死体が! 執拗に彼らを襲う謎の殺人鬼。はたして彼らは無事逃げられるのか?

 岡嶋版『13日の金曜日』です(笑)。雪に閉ざされた別荘地。切断された電話線。破壊された車。もうどこにも逃げ場がない! そして執拗で冷酷,そのうえ頭の切れる殺人鬼。つぎつぎと殺されていく登場人物。狂気と絶望の狭間で必死に抵抗する主人公。ひねりもなければ,だましもない。襲うものと襲われるもの,追う者と逃げる者,その単純な設定による,ど真ん中速球勝負(?)のスプラッタです。解説で品川四郎が書いていますように,岡嶋作品としては,かなり異色の部類に属するのではないでしょうか。でもって,異色な作品なだけに,好き嫌いがかなりはっきり出てしまう作品ではないかと思います。「ど真ん中速球勝負」を「芸がない」と見るか,「痛快」と見るかは人それぞれでしょうからねえ。また他の岡嶋作品に期待するものを期待すると,拍子抜けのようなところもあるかもしれません。で,わたしはどうかというと,けっこう楽しめました。自信を持って「おもしろい」というには,少々ためらわれますが,こういったシンプルなジェットコースター的展開だと,割り切って読めば,それなりに楽しめる作品だと思います。それこそ「つぎはどうなる,つぎはどうなる」と読み進め,気がつくと読み終わっている,という感じです。だから,途中で主人公たちが殺人鬼の行動や目的を,いろいろと推理する場面があるのですが,逆にそういったシーンが,ストーリーの流れを変に滞らせてしまっているようで,ちょっと中途半端にミステリ色を混ぜてしまっている,というような印象もあります。完全に開き直ってもよかったのではないでしょうか?

 この作品は,岡嶋二人最末期の作品のようですが,『クラインの壺』や解散後の作品の雰囲気からすると,かなり井上夢人のカラーが強く出ているように思えます(そこらへんの事情を確認したいけれど,『おかしな二人』,どこいっちゃったのかなあ)。

97/08/16読了

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