都筑道夫『くらやみ砂絵』光文社文庫 1997年
お江戸は神田橋本町,大道芸人が住まうおんぼろ長屋,雨が降ったら商売できず,長屋でごろごろ,ぬたぬた転がっている,ついたあだ名が「なめくじ長屋」。そこに住まいの砂絵のセンセー,摩訶不可思議な事件の裏,切れる頭でお見通し。ただし「正義の味方」は気取らずに,取れるものはしっかり取る,一筋縄じゃ行かない「悪党」。今日も今日とて,長屋の住人手足に使い,快刀乱麻に謎をたつ(うまい具合に七五調にはならんなあ,やっぱり文才が・・・)。
都筑道夫の作品は,一時期かなりはまっていました。しかし,このなめくじ長屋シリーズは,故郷の小さな本屋には滅多に並ばず,1冊だけ(たしか『からくり砂絵』だったと思います)なんとか入手して読んだ記憶があります。最近気がつくと,光文社文庫で,たてつづけに出版されていて,なにやら隔世の感があります。ただ今思うに,彼の作品はおもしろいのですが,「結果的に不思議に,あるいは不可能になってしまった事件」が,ちょっと多いようです。「不可能犯罪(たとえば密室)がどのように行われたか,ではなく,なぜ行われたか?」に重きを置く作家のようですから,その「なぜ」を理屈づけるためのひとつの手法として,「意図せざる結果としての不可能犯罪」という解決が多用されることも仕方ないのかもしれませんが,少し気にかかります。だから「なんでそんなことまで推理できるの?,砂絵のセンセー」という,気持ちになってしまうことも,しばしばあります。
97/03/21読了