泡坂妻夫『泡坂妻夫の怖い話』新潮文庫 1998年

 「怖い話」というタイトルがついてますが,怖い話だけでなく,奇妙な話,皮肉な話,エロチックな話,しんみりさせられる話,SFタッチの話などなど,いろいろなタイプの掌編やショート・ショート31編をおさめた作品集です。
 気に入った作品についてコメントします。

「ハートのQ」
 にわかマジシャンの輪田に持ちかけられたインチキポーカーの誘い…
 おそらくは駄洒落が,この作品のアイディアの元なのかもしれませんが,巧い設定のお話に仕立てています。
「解坂中腹」
 高速道路建設反対派だった重吉さんの呪いで,事故が多発し…
 やはりこの人はミステリ作家なのだな,と改めて思わせる理詰めの作品ですが,ハートウォームなラストがいいです。また読み終わってタイトルを見ると,ニヤリとさせられます。
「階段」
 その駅の階段では,転落事故が何度も起こり…
 この作品も怪談と思わせておいて,「理」に落とします。言われてみると,たしかにこういうことってありそうです。
「烏が」
 大量発生した烏を調査していた鳥尾たちは,奇妙な男を見つけ…
 これは巧い作品です。烏の退治方法と,道路に貼られた1万円札というミスマッチな組み合わせを巧みに絡めています。さりげない一文もラストで効いています。本書で一番楽しめました。
「排水口など」
 水道使用量が急増した家の水道管を調べても,なんの傷もなく…
 水道使用量という日常的なところに目をつけたところがおもしろいです。また「きれいな排水口」というなにげない描写もラストで「ぞくり」とさせられます。
「自然食」
 慎重な調査の末,ようやく自然食オンリィの店が見つかり…
 どうなるのだろうと思って読み進めていくと,ラストで驚きました。ただオチそのものに驚いたと言うより,この作者がこういったオチを書くとは,という驚きの方が大きかったです。まったく逆のパターンのアイディアを読んだような記憶があります。
「永日」
 夢の中に出てきた美人女優が教えてくれた電話番号にかけてみたところ…
 これもありがちな話なのですが,しみじみとしたファンタジィに仕上がっています。登場するおばあさんがなんとも素敵です。ラストの一文は不要かなぁ?
「面」
 国際奇術大会の会場で,不思議な面が売られており…
 ラストがアイロニカルです。腕のいいマジシャンというのは,ここぞと言うときに,とっておきの種を使う人のことを言うのでしょう(笑)
「吉田御殿」
 白木蓮咲き乱れるその家には,ひとりの女が住んでおり…
 白木蓮の妖しい香りに満ちた家で繰り広げられる男女の肉の饗宴。妖美で淫靡な1編です。
「妖香」
 旅の雲水が訪れた小さな村。そこでは立て続けに水死者が出ており…
 これも幻想的でエロチックな雰囲気をたたえた作品です。水死者がいずれも「長い棒」を持っていたというところがミソですね。本作品の元ネタは『近世仏法奇譚集』とのこと。でもホントにこういう本あるの?(<最近,疑い深くなっている(笑))。

98/08/11読了

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