朝松健『こわがらないで・・・』ハルキ文庫 2000年

 「そして,ぼくらはいつも耳を澄まし,現実の裂ける音がするのを待っているのだ」(本書「こわがらないで・・・」より)

 2編の短編を収録しています。

「こわがらないで・・・」
 妹の睦美が自室にこもりだしたのが始まりだった。“ぼく”の周囲には奇怪な出来事が続発し,さらに“ぼく”自身も変容しはじめたのだ…
 思春期の少年少女が,その不安定な心理から,ポルターガイストなどのサイキック・パワァを発揮するというのは,オカルト方面では「定番」ともいえるパターンのようです。本編の主人公“ぼく”は18歳の高校三年生,妹の睦美は14歳,中学二年生。心理的にも生理的にも,「子ども」から「大人」へと変化する過度的な年代です(男よりも女の方が早熟ですから,この年齢設定は適切なものといえましょう)。ただでさえ,有象無象のわけのわからないものが渦巻く年齢だけに,オカルト的なものと親和性があるのも肯けるところであります。冒頭にあげたセリフは,そんな心理状態を象徴しています(個人的にも,当時の自分を思い返すと,シンクロする部分もあります)。
 作者は,そこにさまざまなオカルト的なアイテムを投げ込みます。それは「心霊写真」であったり,「黒マント」であったり,「きぃ,きぃ」というラップ音であったりします。いずれも,アイテムとしてはオーソドックスというか,使い古されているというか・・・(とくに「黒マント」は,「赤マント・青マント」といった都市伝説を連想させますね)。
 そして,これらのアイテムと不安定な少年少女の心理とを共振・共鳴させて,怪異を形作っていくわけですが,その怪異の背後には独自のロジックが隠されていることがラストで明らかにされます。それは,いわば「トンデモ系ロジック」と言えるのかもしれませんが,それなりに整合性を持っています。それゆえにでしょうか,要するに怖くないんですよね。ラストの処理も,改めて「怖さ」を醸し出す手法なのでしょうが,これもまた「ありがち」なところがあります。この作者,「ホラー作家」というレッテルが貼られていますが,むしろ「オカルト作家」と呼んだ方がいいのではないかと思います(ふたつの,どこがどう違うかは,あまり突っ込まないでください^^;;)。

「樹妖の恋唄」
 「イギリスから帰ってきたボーイフレンドの様子がおかしい」―合コンで知り合った女子大生からの依頼で,魔女の弟子・鞍馬は,師匠の稲村虹子とともに,事件の解決に乗り出すが…
 朝松版『GS美神 極楽大作戦!!』といったところでしょうか(笑)。「稲村虹子&鞍馬」の師弟コンビを主人公として,いろいろな怪奇な事件を解決していくというシリーズものの1編のような趣向の作品です。最初から,西洋魔術系オカルト的知識が全開,あっという間に「あっちの世界」に入り込んでいきます。なにしろ女子大生がタロットカードのシャッフルの仕方を「教養」としてたしなんでいるというのですから(思わず,「どこが,教養じゃい!」と突っ込みたくなりました(笑))。しかし,そんな「教養」の方が先行したようなところがあって,出てくるキャラクタのインパクトがちょっと弱いように思いますね。もっとデフォルメしたキャラでもよかったのではないでしょうか?

00/12/08読了

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