折原一『幸福荘の秘密 続・天井裏の散歩者』角川文庫 1997年

 推理作家・小宮山泰三が,かつて住んでいた“幸福荘”。推理作家を目指す若者たちが集っていたそのアパートも,いまでは火事で焼けたのち,マンションに生まれ変わっている。新たな“幸福荘”を訪れた“わたし”は,そこで,ふとした偶然から,1枚のフロッピーを手に入れる。そのフロッピーには,現実とも創作ともつかぬ,怪しげな事件が記されており・・・。

 「角川(かどかわ)ミステリーコンペティション」の1冊として発表された『天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記』の続編であります。前作と同様,1枚のフロッピーに入った「文書1」「文書2」・・・・・,という形で物語は進められていきます。これまた同様に,幸福荘に住む一癖も二癖もある人物たちの,それぞれの視点(「わたし」「僕」「俺」「私」)から,“事件”が語られていきます。密室の風呂場で死んだ女,「角川(すみかわ)ミステリーコンペティション」に名を連ねた作家(?)たちを襲う連続殺人などなど,なかなかテンポよく,ストーリーは展開していきます。前作は読んだのですが,すっかり忘れてしまっていたので,読み始めはいささか不安でしたが,あまり気にすることなく,読み進めていけました。また視点が変わるたびに,これまで「現実」と思われていた部分が「フィクション」に転化し,「作中作」と思っていたことが,じつは現実にも起こっていた,という“仕掛け”は,手慣れた感じです。そしてラスト直前,現実世界に着地,と思ったところで,その現実でも不可解な事件が起こる,という趣向も,前作とほぼ同じものです。そういった意味で,続編だから当たり前といえば当たり前ですが,前作を忠実になぞっています。しかし,さらにもうひとつ読者に謎を仕掛ける,それも,読者が前作を読んでいることを前提とした上で,謎を仕掛ける,といったところは,作者が“続編”という大がかりなトリックを試みているように思います。その“トリック”そのものは,ちょっとネタ割れしているようなところもありますが,なかなか楽しめました。途中で“小ネタ”もけっこう挿入されますし,なにより,交互に視点が入れ替わりつつも,あまり混乱することなく,サクサクと読み進められるようなテンポの良さが(つまり,作者の配慮が行き届いている,ということなのでしょうが),よかったですね。

 叙述ミステリの感想文は書くのが難しいですね。どう転んでもネタばれになってしまう危険性があります。だからえらく抽象的な文章になってしまって,申し訳ありません。

 それにしてもこの作者,作中人物に「角川(すみかわ)ミステリーコンペティション」の悪口をずいぶん言わせてますが,これは作者自身の「角川(かどかわ)ミステリーコンペティション」への不満だったのかもしれません。そういえばこのコンペティション,本物の方はどうなったのかな? 岩崎正吾の『闇かがやく島へ』が1位だったと聞いたことがあるような,ないような・・・・。

97/12/26読了

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