横田順彌『古書狩り』ちくま文庫 2000年

 「古書」あるいは「古書マニア」をモチーフとした,9編よりなる連作短編集です。各編,帯の文句にあるような「収集家たちの驚くべき姿を描いた」作品でありますが,それとともに,ミステリ,SF,ホラーと,それぞれ趣向がこらされており,ヴァラエティに富んだテイストが楽しめます。
 気に入った作品についてコメントします。

「古書狩り」
 “ぼく”が古書展で見かけたその老人は,何回も同じ古書を購入しており…
 「その老人は,なぜ同じ本を何度も購入するのか?」という謎が提示されます。なおかつ,買うときと買わないときがあるという,読者の興味をよりそそるような仕掛けになっています。ラストで明かされる真相は,盲点をついた「なるほど」と思わせるもので,作者の着眼点の勝利といったところでしょうか。
「姿なき怪盗」
 1冊の本から,贈呈栞や読者カードをつぎつぎと盗んでいく“怪盗”の正体は…
 ミステリ好きとしては,“怪盗”の盗みのテクニックをもう少し具体的に描写してほしかったところですが,しだいにゲームとして対応するようになる主人公の姿や,ほのぼのとしたエンディングが楽しめます。
「小沢さんの話」
 図書館で偶然出会った小沢さんは,世界に1冊しかない本を売ると言い…
 設定はしっかりSFではありますが,どこか「稀覯本」をめぐる都市伝説のような手触りをもった1編です。でも,イントロで紹介される「同じ本」をめぐるエピソードは,本当のことなのかもしれませんね。
「思い出コレクション」
 “ぼく”に声をかけた未亡人は,明治時代の冒険小説のコレクションを見せてくれ…
 本の持つ,もうひとつの「貌」を巧みに取り込んでます。後半,ちょっと説明調でバタバタした感じがありますが,「ぞくり」とするエンディングが好みです。それにしても「異形コレクション」収録のこの作者の作品にたびたび顔を出す押川春浪は,38歳という若さで亡くなったんですね。う〜む,もっと年上をイメージして読んでました。
「書棚の奥」
 「大杉右京同好会」に入会した“俺”は,コレクタの恐ろしさの一端に触れ…
 ストーリィ的には,さほど楽しめませんでしたが,大杉右京(モデルは小松左京ですね)の「本」にも,いろいろあるんだな,と感心してしまいました。しかも,それを全部集めようとする情熱というのは,なんともはや・・・(°°)
「奇蹟の夜」
 古本屋で,超稀覯本を安価で手に入れた“ぼく”は,宇宙人を名乗る美女に声をかけられ…
 エンディングに大爆笑してしまいました。稀覯本コレクタにとっては悪夢のような結末かもしれませんが,主人公をそれほどのマニアに設定していないせいもあって,主人公が感じたのと同様の爽快感があります。このラストは,古書マニアである作者にとっての「裏返された夢」なのかもしれません。

00/03/27読了

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