小池真理子『キスより優しい殺人』徳間文庫 1999年
掌編・短編あわせて15編を収録した作品集です。気に入った作品についてコメントします。
「キスより優しい殺人」
カナリアを買いに来た美人の人妻と関係を持ってしまった“僕”を待っていたものは…
美女に血迷った男の哀れな末路,という点で,比較的オーソドックスなストーリィではありますが,前半の描写が生きてくる,ラストのツイストは巧いですね。
「奇妙な話」
細胞学の権威・鵜山博士が体験したという“奇妙な話”を聞いた“僕”は…
SFショートショートを思わせる作品です(というか,まんま,かもしれませんが)。ネタとしては見慣れたものではありますが,「『とても信じられませんが』と,僕は言った。『忘れられない話になりそうです』」というセリフが気に入りました。
「家族の風景」
1年前に失踪した妻を待つ順一のもとに両親が訪れて…
いいですねぇ,こういう作品。“事の真相”を明確に描かず,示唆的な描写で雰囲気を盛り上げています。両親の穏やかな口振りも,不気味さを醸しだしのに効果的です。本集中,一番楽しめました。
「レディス・メイト」
愛人のマンションで,彼女の帰りを待つ男は,殺人シーンを目撃し…
ラストで思いっきり苦笑させられる作品です。もうちょっと伏線があれば,よりおもしろいと思いました。
「指輪」
アンティーク・ショップで「幸運を呼ぶ指輪」を買った千佳。ところが,それ以来,心にもないことを口走るようになり…
「幸運を呼ぶグッズ」というネタは,けっこう見かけますが,こういった「幸運の呼び方」もあったのか,と感心しました。ラストの余韻もいいです。
「光あふれる樹」
クリスマス・イヴの夜,麻衣子はある決意を胸に秘め,街を彷徨う…
性格の悪い(笑)この作者にしてはめずらしいハート・ウォームな作品です。一種の「クリスマス・ストーリィ」というのでしょうね。
「目には目を」
妊娠中の妻のもとに,風疹にかかった息子を連れてきた弟。兄はひそかに殺意を固め…
「人を呪わば穴ふたつ」という,この作者お得意のパターンです。その手の作品であることは,前半からなんとなく見当が付きますが,「穴」の設定がなかなか秀逸です。あるいはまた「死者の復讐」ともいえるかもしれません。
99/03/07読了
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