中島河太郎編『君らの狂気で死を孕ませよ 新青年傑作選』角川文庫 2000年

 1977年,同じ角川文庫から出版された『新青年傑作選II 推理編II モダン殺人倶楽部』の改題復刊です。なんとも懐かしい・・・たしか元版は全5巻だったと記憶していますが,すべて復刊してくれるとうれしいですね(うち1冊が角川ホラー文庫で復刊されているそうですが,未見です)。それと「『宝石』傑作選」も「新青年」に続いて出されていたはず。こちらも期待したいところです。ところでこの新タイトル,大江健三郎『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』を連想させますね。
 8編を収録しています。気に入った作品についてコメントします。

角田喜久雄「死体昇天」
 吹雪の山中,妻との関係に疑惑が持たれる親友が遭難し…
 雪が吹き荒れる山中での,主人公と親友との「対決」が緊迫感があります。親友の死体がなかなか発見されない理由は,すぐに見当がつきますが,そこに弾痕の残る水筒の出現などを絡ませ,もうひとひねり加えているところがおもしろいですね。
海野十三「人間灰」
 湖の畔にたつ,その工場では,西風が強く吹く夜,人が行方不明になるという…
 この作者らしい,けれん味たっぷりの科学トリックが楽しめます。二転三転するラストが小気味よいです。また途中で警察署長の「奇妙なセリフ」に引っかかったのですが,最後になってその理由が明らかになり,苦笑させられました。それにしても,新聞社が警察の電話を盗聴したり,血液型鑑定を「ハイカラ」というところは,時代を感じさせますね。
平林初之輔「秘密」
 4年前に別れた恋人が戻ってきた。彼女を裏切って,別の女と結婚してしまった“私”は…
 元の恋人がいる横浜のホテルに,伯母の家に行ったはずの妻がいる,なぜか?というサスペンスを,どのように着地させるか,がポイントになります。ミステリとしては偶然の重なりがあざといですが,そのことが逆に綺譚としての面白味を出しています。
山本禾太郎「閉鎖を命ぜられた妖怪館」
 デパートの屋上から墜落した女のために圧死した男。男の妻はデパートの管理責任を訴えるが…
 お化け屋敷で気を失った女,デパート屋上からの墜死に巻き込まれた男,カメラに写ったへんなもの・・・まるで三題噺のような物語が,するするとラストでつながるところが,いいですね。結局,「辻堂」の幽霊の正体は・・・そこらへんは「言わぬが花」なのでしょう。
江戸川乱歩「陰獣」
 博物館で偶然知り合った人妻は,探偵小説家の大江春泥から脅迫されているという…
 久しぶりの再読です。おおまかなところは憶えていましたが,けっこう忘れているところも多く,改めて楽しめました。語り手である“私”大江春泥とは,作者の持つ「ふたつの顔」なんでしょうね。そのふたつの「顔」を上手に絡み合わせながらのトリックは,いわば乱歩の集大成といった趣があります。ラストの余韻もグッド。

01/01/12読了

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