新津きよみ『結婚させない女』双葉文庫 1997年(-o-)

 高倉葉子は,20年前,7歳のときに,あやまって酔っぱらった男を,川につき落として,死なせてしまった過去があった。そんな彼女の前に現れた大学時代の友人。彼は大阪で一夜をともにしたという。しかし彼女にそんな記憶はない。もうひとりの“わたし”がいる! そして彼女の周囲で起こる殺人事件。犯人はもうひとりの“わたし”なのか? 20年前の事件とどのように関係するのか?

 この物語では,主人公をめぐる“もうひとりのわたし”の謎をメインストーリーとしつつ,女性をとりまくさまざまなトラブルが描かれています。いたずら電話に悩む美波,アメリカで代理母として妊婦になった紀子,主人公葉子の不倫恋愛,不妊症,セクシャル・ハラスメントなどなど。最近,アメリカなどでは,女性作家による女性を主人公としたミステリが,ひとつの分野を形成しているようで,日本でも桐野夏生のような作家が活躍していますが,この作品も,そういった流れに乗るものなのかも知れません。ただ,そのことが作品に独特の雰囲気を作り出している点はおもしろいのですが,それらのトラブルが,直接メインストーリーに関わらないため,物語としては,いまひとつおもしろみに欠けるうらみがあるようです。

 それと以前読んだ,同じ作者の『女友達』の感想文でも書いたのですが,この作者の作品中の会話はあまりに説明的すぎるのが難ですね。とくにこの作品では,クライマックスの主人公と犯人との対決で,犯人が,事件の動機と経緯を,延々と告白するシーンは,はっきりいって退屈です。その動機は,明らかに狂気に属するものでしょうし,主人公も「あなたは狂っている」というようなことを何度も言うのですが,どうしてもそう感じられない。それは犯人の告白が,あまりに整然とし過ぎていて,まるで自分の心理を「解説」しているようにしか,読めないからです。もう少し「描写」でもって,状況を「説明」してもらいたいものです。

 ところでこの作品は,1986年が初版のようですが,なんで10年以上たった今年,文庫化されたのかな,と思っていたら,今日(8月22日),フジ系列の『金曜エンタテイメント』で,萬田久子主演でテレビドラマ化されていました(笑)。

97/08/22読了

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