平岩弓枝『江戸の子守唄 御宿かわせみ2』文春文庫 1979年

 「人間,背負いきれない重荷をしょわされれば,狂気にもなる・・・・」(本書「迷子石」より)

 シリーズ第2集です。るい神林東吾との関係はあいかわらずですが,東吾が朋友の同心畝源三郎の探索に,なんやかやと積極的に関わるようになってきたせいか,みずから進んで事件の渦中に入り込んでいくパターンになってきているように思います。

 たとえば「迷子石」では,市中で続発する辻斬り事件を追って,東吾は源三郎とともに東奔西走します。仮にも侍が,抵抗する間もなく袈裟がけされているのはなぜか,という謎が絡んでくるところがいいですね。犯人像の造形が意外であるとともに−それでいて納得できるものがあります−,冒頭に挿入された「迷子石」のエピソードと結びつき,犯人の哀しみが浮かび上がる幕引きもグッドです。本集中,一番楽しめました。ところで,この「迷子石」,宮部みゆき『幻色江戸ごよみ』中の短編にも,似たようなのが出てきてましたね。
 また「ほととぎす啼く」では,味噌汁に毒を盛られたり,河に突き落とされたりと,主人が身の危険を感じていた大店で殺人事件が発生し・・・というお話。ミステリ好きとしては,もう少し伏線なり,東吾の推理のプロセスなりを書いてほしかったところでありますが,けれん味たっぷりの展開と,その上での(お約束的な^^;;)ツイストは,いかにも捕物帳らしくていいですね。
 東吾が,掏摸の仲間に間違えられたことから,誘拐事件に巻き込まれるのが「お役者松」です。本編で登場する,掏摸の「お役者松」の,どこかとぼけたような性格がいいですね。その特技(?)を生かして,今回だけでなく,いろいろと絡んでくるとおもしろくなるかもしれません。

 一方,「奇妙な縁」をモチーフに取り込みながら,そこからさまざまな−喜怒哀楽織り交ぜた−人間模様を浮かび上がらせようとする手法もまた,この作品のひとつのパターンでしょう(もしかすると,この作品だけでなく「時代劇」の「定型」のひとつなのかもしれません)。
 「宵節句」は,市中で続発する凶悪な強盗事件,東吾と源三郎はその手口に,ある人物を思いつき・・・という内容です。かつての知り合いと敵・味方とならざるを得ないというシチュエーションは,剣戟ものや捕物帳ではお馴染みのものですね。るいと東吾,五井兵馬とのもつれた因縁が浮かび上がるクライマクス・シーンは緊迫感があります。
 また,1年に1回,七夕の夜に必ず「かわせみ」を訪れる中年の女と若い男,ふたりの関係はいったい・・・という「七夕の客」。大店の利権と体面のために引き裂かれる母子の哀しみという,これまた時代劇でありそうな設定ですね。

 ところで,第1集のときからちょっと気にかかっていたのですが,地の文に「現代的語彙」がときおり紛れ込んでいて,それが,古い言い回しを多用するセリフとアンバランスになってしまうところが目につきます。本集だと,たとえば「アリバイ」なる言葉が,突然ぽんと出てきたりして,どうも違和感を感じてしまうんですよね。「今で言えば」とか「現代風に言い換えると」といった一文がつけば,多少は違和感が減じるのかもしれませんが・・・

01/06/17読了

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