太田忠司『狩野俊介の事件簿』トクマ・ノベルズ 1994年

 少年探偵・狩野俊介シリーズの第2短編集です。ユニークな各編のタイトルは,もともと『狩野俊介の時間割』という総タイトルでまとめられる予定だったからだそうです。『事件簿』という,どこにでもありそうなタイトルより,そちらの方がインパクトがあったかもしれません。
 それと「課外授業 保健体育」なんてのがあったら楽しいのですが・・・(<おっさんの発想ですな(^^ゞ)

「一時間目 国語―俊介への遺言」
 「私の最も大切な財産を狩野俊介に譲る」と記された,元市長の遺言状には暗号が秘められていた…
 「暗号もの」というのは,どうも苦手意識が強く,出てきた途端に思考停止に陥ってしまいます(笑)。ですから,「まぁ,こんなものかな」と思ってしまうのは,きわめて個人的嗜好によるものなのでしょう^^;;。でも,前半の俊介の推理が,ほのぼのとしたラストの伏線になっているところはいいですね。
「二時間目 理科―それなりに科学的な日々」
 美術館から名画が盗まれたが,犯人はスピード逮捕された。しかしそのあまりの速さに疑問をおぼえた俊介は…
 俊介は理科があまり得意でないという事実が明らかになった一編です(笑)。メイン・トリックより,盗まれた名画が発見された経緯の推理の方が楽しめました。ところで作中に出てくる「夜蝶炎舞」という絵画,なにかモデルがあるように思うのですが…
「三時間目 数学―奇妙な等式」
 宝石の展示会場から『東洋の魅惑』と呼ばれる宝飾品が盗まれた。しかし犯人は煙のように消えてしまい…
 「人間消失」をあつかったエピソードです。トイレの構造がちょっと不自然なので,真相は早々に見当がついてしまいます。ところで「そのうちわかるから今は納得できなくてもやれ」という考えは,なにも数学に限った話じゃありませんね。
「四時間目 音楽―家族のための旋律」
 俊介の友人・久野徹の両親の元に脅迫状が届いた。「今のうちに息子との思い出を作っておけ」と…
 これまた途中で真相がわかってしまう話です。ただ,前の「数学」もそうなのですが,トリック云々というより,“私”野上栄太郎と俊介との関係に焦点を当てているようにも思います。それは「大人と子どもの関係」という一般的な問いとも言えそうですし,同時に,このシリーズが,俊介の「成長物語」であるとともに,“私”の「成長物語」であることを示しているように思います。
 そういった意味で,ミステリとしての魅力よりも,シリーズものとしての魅力が強い作品集ではないでしょうか? ですからミステリとしては「(-o-)」なのですが,後者の魅力を加味して「(~-~)」にさせていただきました。

99/01/07読了

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