今邑彩ほか『かなわぬ想い 惨劇で祝う五つの記念日』角川ホラー文庫 1994年

 サブタイトルにありますように,“記念日”をテーマとした,女流作家5人によるアンソロジィです。篠田節子ファンの宮崎さんからのご紹介です。角川ホラー文庫のアンソロジィはこまめに読んでいたつもりですが,この作品集は未読でした。

今邑彩「鳥の巣」
 大学時代の友人と久しぶりの再会を約して,山中湖畔のペンションを訪れた佳織。だがそこには奇妙な中年婦人がひとりだけ居り…
 ミステリのネタをホラーでラッピングしたような作品です(う〜む,意味の通りにくい比喩だ(笑))。ホラーネタの方はありがちといえばありがちで,オチは見当つきますが,ミステリネタの方は,「奇妙な味」風で楽しめました。
小池真理子「命日」
 仙台で暮らしていた子供の頃,姉の死の間際,“私”は不思議な少女を目撃し…
 オーソドックスな,あまりにオーソドックスな怪談話といったところです。この作者ですので,もう少しツイストを期待したのですが・・・・。ちょっと物足りない感じです。
篠田節子「誕生」
 キャリアウーマンの直子は,ある日,“なにか”を生んだ。たしかに生んだのだが…
 こういった“出産”にまつわる不安や恐怖というのは,男性のわたしには,正直なところピンとこないところがあります。ただ出産に対する社会的プレッシャや女性の社会的な地位の問題を絡め,「ズン」とした重みのある作品です。しかし,彼女の生んだ“なにか”は,本当に存在しているのでしょうか? それとも直子の妄想が生み出しただけの存在なのでしょうか? そこらへんの不鮮明さがより一層の不気味な雰囲気をより醸し出しています。読後,“誕生”というタイトルが改めて考えさせられます。
服部まゆみ「雛」
 ある日,画商の坂井修造の元に持ち込まれた一体の女雛。その美しい顔が一瞬にして夜叉に変わるのを目撃した彼は…
 この作品も,人形ネタのオーソドックスな怪談といってしまえばそれまでですが,エンディングの江戸川乱歩的雰囲気が,わたしは好きです。最後に出てくる“対の一体の雛”の扱い方も,プロローグの伏線と合わせて,効果的です。
板東眞砂子「正月女」
 不治の病に冒された“私”は,最後の正月を家で過ごすことになるのだが…
 死を目前にして,嫉妬と疑念に心狂わせる主人公の姿に,薄ら寒いほどの恐ろしさがあります。それに加え,“正月女”という(本当にあるのかどうか知りませんが)土俗的な風習を絡めるあたり,この作者お得意の世界でしょう。「人を呪わば穴ふたつ」的なラストもにやりとさせられ,いいですね。本作品集では一番楽しめました。

98/01/02読了

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