近藤史恵『カナリヤは眠れない』ノン・ポシェット 1999年

 「身体の声を聞く」整体師・合田力。彼の元を訪れた主婦・墨田茜は頭痛と不眠を訴えるが,合田は,それ以外の何ものかを感じ取る。優しい夫と豊かな生活,満ち足りた日々を送っているはずの彼女は,なぜ買い物依存症になってしまったのか?

 この作者の長編作品を読むのははじめてです。
 ミステリにおける探偵役の職業は,じつにさまざまなものがあります。それらの作品では,探偵がその職業の特性を生かして,事件の手がかりをつかみ(ときに事件そのものを予見し),推理していくというパターンが定番と言えましょう。そういった意味で,この作品の,身体の変調から患者の抱えるトラブルを推理する「整体師探偵」というのは,たしかに秀逸な着眼点ではないかと思います。まぁ,実際の整体師の方が,整体からどの程度患者の生活史を知ることができるのかどうかはわかりませんが・・・(肩こり持ちなので,ときおりマッサージを受けることはありますが,整体師にかかったことはないです^^;;)。

 さて本作品は,「買い物依存症」の専業主婦“わたし”墨田茜の視点と,雑誌記者“ぼく”小松崎雄大の,ふたりの視点を交互に描きながら進んでいきます。前者が,この作品のいわば事件の中心であり,後者はどちらかというと,主人公の合田力や,彼の接骨院で働く江藤恵・歩姉妹を通じての「現代的病理」を描写する役割を果たしているようです。
 両者の視点から描き出されるストーリィ展開は軽快でテンポがよく,サクサクと読んでいけます。ただややメリハリにとぼしく,「どこが事件の,謎の核心なのか?」というあたりが,はっきりしません。そのためいまひとつサスペンスにかける恨みがあります。そのせいでしょうか,ラストで明かされる「真相」は,「ああ,なるほど」と感心はするものの,あまり驚きを感じさせないものになっているように思います。途中にもう少しラストにいたるミステリ的な工夫が欲しいところですね。

 ただ今回を皮切りに「整体師探偵シリーズ」とするならば,この作品で「状況説明」は完了してますから,今後はスムーズに展開していくのではないでしょうか? 読みやすい文体ですので,期待できます。

98/08/04読了

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