笠原卓『仮面の祝祭2/3』創元推理文庫 1994年

 クリスマスイヴの夜,フォーク歌手緒方信大が殺された。事件の直前に目撃された女のサンタクロース。同日,アルバイトでサンタクロースの扮装をしていた3人の女子大生。彼女たちのうち,ふたりはアルバイト先の商店街で時間を尋ねていたことから,アリバイがある。しかし3人が3人とも,時間を尋ねたのは自分だ,と主張する。一方,俳優の久坂征次郎が自宅で毒殺される。しかし容疑者たちには,いずれもアリバイがある。ふたつの事件の接点はいったいどこにあるのか?

 二重三重のアリバイ,錯綜する人間関係,刑事たちは真相を追って,とにかくひたすら歩き回り,手持ちのデータでさまざまな推理を繰り広げますが,それを嘲笑うかのように,つぎつぎと新たな「鉄壁のアリバイ」が出てきます。そしてなにより動機がはっきりしません。読んでいて,まるで作中の刑事と同じように,迷路の中を長々と連れ回されているような,そんな印象を受けます。だから作中の刑事たちの一喜一憂が,読んでいる側にも伝わってきます。

 実のところ,メインとなるアリバイトリックそのものは,「あっ」と驚くようなものではありません。むしろ陳腐なものでしょう。しかし,そのトリックを覆う二重三重のミスディレクションが,事件を,つまりは物語を複雑にし,刑事たちを,そして読者を翻弄させる結果になっています。結局,トリックそのもののすごさと言うより,単純なトリックをどれだけ効果的に用いているか,というところが,この作品のおもしろさになっているのでしょう。ただちょっとくどいかな,という気もしないではありませんが。くどいと言えば,警視庁と神奈川県警とのなわばり争いなんか,現実にはあるのでしょうが,あんまり描いても意味ないんじゃないかな,という気がしました。

 ちなみに各章のタイトルが,著名なミステリの作品名,あるいはそのパロディになっています。

97/03/02読了

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