東野圭吾『怪笑小説』集英社文庫 1998年

 ブラックな嗤いに満ちた作品9編をおさめた短編集です。気に入った作品についてコメントします。

「鬱積電車」
 夜8時,都心から郊外に向かう私鉄の急行列車は,恐ろしいほどいつもと同じだった…
 オチそのものは陳腐な感じがしないでもありませんが,めんめんとつづられる鬱々とした気持ちは,バス通勤のわたしにも,我がことのように実感できます(笑)。
「一徹おやじ」
 待望の息子が生まれた! 父は野球選手の道を歩ませようとするのだが…
 ラストで爆笑してしまいました。「この世界」の本質(?)をじつに的確にとらえているように思います(偏見?)。「自由の国アメリカに行きたい」というのが,巧みな伏線になってますね。
「超たぬき理論」
 空山一平は,子どもの頃に不思議なタヌキを見たことから,「UFOはタヌキだ!」という結論にたどりつく…
 「トンデモ本の世界」を徹底的にパロった作品です。作中「UFO写真の95%は誤認」という文章が出てきますが,単に「わからない」という,残りの5%を,「だからこそ空飛ぶ円盤は存在する」と結論づけてしまうところが,「最初の一歩」なんでしょうね(笑)。
「しかばね分譲住宅」
 値下がりを続ける分譲住宅地で死体が発見された。これではますます値下がりしてしまうと怖れた住人たちは…
 いやはや,本集中,もっとも悪趣味な作品です。でも,けっこう好きだったりします(笑)。どんどんエスカレートする展開に「どういうオチだろうか?」と思っていたので,このラストには大笑いしてしまいました。ここらへんの巧みさは,やはりこの作者らしいですね。
「あるジーサンに線香を」
 三月一日,先生は日記をつけてくれとわしに頼んだ…
 タイトルからもわかりますように,ダニエル・キイスの名作『アルジャーノンに花束を』のパロディです。パロディでありながら,原作と同じような,せつない,もの悲しさを描いてしまっているところがすごいです。

98/09/07読了

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