鮎川哲也編『怪奇探偵小説集[続]』双葉社 1976年

 古本屋で見つけた1冊(最近,多いな・・・)。「続」というからには,当然「正編」もあって,どうやら「続々編」もあるようです。
 一部戦後の作品も含みますが,大部分が戦前に発表された掌編短編18編を収録したアンソロジィです。
 猟奇趣味が横溢した作品,幻想的な作品,いまだったら「ホラー」に分類されるであろう作品などなど,かつて「探偵小説」と呼ばれていた世界は,幅広かったんですね(いまでも「ミステリ」は「なんでもあり」みたいな感じになってますが(笑))。
 また滅多にお目にかかれない作家さんたちの作品に触れることができる点でも,なかなか楽しめたアンソロジィでした。「正編」「続々編」も読んでみたいものです。
 気に入った作品にコメントします。

江戸川乱歩「踊る一寸法師」
 ある夜,サーカスで繰り広げられるグロテスクな饗宴。皆に虐め苛まれる一寸法師は復讐を企てる…
 ご存じ,大乱歩の有名な短編です。導入部の狂乱的な宴と一寸法師“緑さん”への虐め,現実ともトリックともつかぬ美女の獄門マジック,そして幻想的でおぞましいラスト・シーン。全編に,ピンと糸を張ったような緊張感は,やはりすごいです。
角田喜久雄「底無沼」
 嵐の夜,山中の小屋で相対するふたりの男。問わず語りのうちにふたりの因縁が明らかにされ…
 これまた緊張感みなぎる作品です。なんといってもラストの「ふと,足下に何かを感じた・・・・」の一文が喚起するイメージが怖いです。
水谷準「恋人を喰べる話」
 “僕”は百合亜を愛していた。彼女も“僕”を愛してくれた。だのに…
 タイトルから,カニバリズムの話かと思ったのですが,グロテスクではありますが,ロマンチックなテイストも併せ持った作品です。綺麗な花を咲かせる木や美味しい果実のつける木というのは,やはり神秘的なものを隠し持っているようです。
渡辺温「父を失う話」
 ある朝,髭を剃った父は,“私”を連れて港に行った。“私”を捨てるために…
 夢を見ているような不思議な話です。なぜ父は“私”を捨てるのか? なぜ父と“私”は10歳しか違わないのか? そもそも“私”とは何者なのか? なにもかもが不確かで曖昧模糊としています。にもかかわらず,“別れ”につきまとう哀しさだけが結晶みたいな確かさを持っています。
城戸シュレイダー「決闘」
 夫と愛人がときを同じくして姿を消した。彼らの目的はなに?
 いったい話はどのように着地するのだろうと,読み進めながら,いろいろと考えますが,まさか,こういうオチになるとは! 苦笑させられるラストです。
光石介太郎「霧の夜」
 霧の夜,偶然同道した男が言った。「人を殺すってことは淋しいことですね」と…
 幻想的な作品です。男はほんとうに妻を“殺し”たのか? そして新聞紙の包みの正体は・・・。すべて,深い霧が見せた幻影なのかもしれません。
 関係ありませんが,ますむらひろしのデビュウ作が,たしか同じタイトルだったような・・・。
横溝正史「面(マスク)」
 『起請』と名づけられた官能的な絵を前にして,老人はその絵の由来を“私”に語りだし…
 嘘とも真ともつかない老人の話を,最後の最後に現実味を帯びさせるという展開に,××という小道具を巧く使っています。

98/02/18読了

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