志村有弘編『怪奇・伝奇時代小説選集4』春陽文庫 2000年

 本シリーズは,わたしがよく行くいくつかの書店には置いておらず,もっぱらJR西鹿児島駅のキオスクで購入します。しかしJRはそれほど利用しませんので,どうしても定期的に入手できません。というわけで,「1」「3」はいまだ読む機会を得ていません(なぜか「5」はすでに入手済みなんですが^^;;)。
 計13編を収録したアンソロジィ,気に入った作品についてコメントします。

中村晃「雪女」
 紅花商売で長者になった山形の吉太郎,京都の娘を嫁にするが…
 男の生死を握る「運命の女」としての雪女の側面を換骨奪胎して,巧みに夫婦の愛情物語に仕立て上げています。「ですます」調の語り口もまた,「民話」風の雰囲気を上手に醸し出しています。
潮山長三「口を縫われた男」
 阿気丸が深い仲となった美女は,彼に口をきくことを禁じ…
 美女と暮らすためには口をきいてはいけない,そして次第に美女の言いなりになって堕ちていく阿気丸…まさに「王朝綺譚」の名にふさわしい1編です。どこかで読んだこともあるような,と思っていたら,元ネタは『今昔物語』とのこと…なるほど。
園生義人「馬喰とんび」
 首のない奇怪な馬“夜行さん”の伝説の伝わる村に,ひとりの奇妙な男が訪れ…
 欲望にとりつかれた庄屋八十右衛門が最後に遭遇するショッキングで,そして不気味なラストがいいですね。この奇妙な馬喰伝次こそ,“夜行さん”だったのかもしれません。
江見水蔭「怪異黒姫おろし」
 徳川家への復讐を誓う美少年は,埋蔵金を手にして…
 冷酷な美少年,怨念に凝り固まった老爺,秘密の埋蔵金,徳川家への復讐・・・まさに歴史伝奇物に定番とも言えるようなアイテムをふんだんに盛り込んだ作品です。後日談的な皮肉な結末も薄ら寒いものがあってグッドです。
九鬼澹「疾風魔(はやてま)」
 豪商の越前屋,旗本の角倉平太夫をつぎつぎと斬殺する鬼面侍の真意は…
 復讐の物語というのは,どこか救いのないものでありますが,この作品は,そのうえ陰惨です。とくに復讐に憑かれた主人公の造形がおぞましく,また肌寒いものがあります。また仇の悪玉を殺すシーンの凄まじさといったら・・・。
岡本綺堂「異妖編」
 「新牡丹灯記」「寺町の竹藪」「竜を見た話」三編の掌編よりなる作品です。今風にいえば「都市伝説」といった趣があります。「新牡丹灯記」は「幽体離脱」のお話。冒頭,闇の中に揺れる灯籠のイメージが妖しく,また幻想美にあふれています。「寺町の竹藪」は,行方知れずになった少女の幽霊が友達に別れを告げに来るというエピソード。因果に落とさず,あやふやなエンディングがいいですね。「竜を見た話」は嵐の最中に竜の鱗を拾った男の末路を描いています。淡々とした描写が,出来事の不可思議さを,より効果的に醸し出しています。本集中,一番楽しめました。

00/03/23読了

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