南條竹則編訳『怪談の悦び』創元推理文庫 1992年
古典的な怪談13編を収録したアンソロジィ。古本屋で見つけた再読作品です。『恐怖の愉しみ』も探し出したくなりました。
気に入った作品についてコメントします。
H・R・ウェイクフィールド「ダンカスターの十七番ホール」
新たにオープンした17番ホール。そこでは不吉な出来事が続発し…
ボールが思うように飛ばないホール,夢の中で主人公が聞く鐘の音と不気味な予言,そして不可解な死・・・少しずつ不吉な出来事が小出しにされて,雰囲気を盛り上げていくところは,まさにオーソドックスな怪談と言えましょう。それにしてもイギリス人にとって,ドルイド教というのは,一種独特の思い入れがあるようですね。
エリザベス・ボウエン「魔性の夫(つま)」
疎開先からロンドンの自宅に荷物を取りに来たドローヴァー夫人は,そこで奇怪な手紙を見つけ…
なぜ「手紙の人物」が主人公にこれほどまでに執着するのか,というあたりがいまひとつ伝わってこないのが不満ですが,じわりじわりと主人公の恐怖が高まっていくところ,そして急転するラストが楽しめました。
リチャード・ミドルトン「棺桶屋」
貴方は近々棺桶が必要になります――ユースタスが手にしたチラシにはそんな奇妙な文句が…
オチそのものは予想できるものではありますが,あくまで淡々と,慇懃無礼に不気味なセリフを繰り返す「棺桶屋」の描写や,不吉な結末を匂わせる間接的なラストの描写などがいいですね。
アーサー・キラ=クーチ「青の無言劇」
既視感を感じて仕方がない宿屋で,“わたし”は鏡の中に怪異を見る…
輪廻転生ネタの因果話,といってしまえばそれまでなのですが,大きな鏡の中で繰り広げられる,まさにタイトル通りの「無言劇」が,幻想的で,緊張感にあふれています。
メイ・シンクレア「天国」
セッションズ氏が,死後に訪れた天国には母親がおり…
「天国」という概念が重要なキリスト教徒にとってはまた違うのかもしれませんが,わたしとしてはブラック・コメディとして読めました。
グラント・アレン「ウルヴァーデン塔」
メイジーがパーティに訪れたウルヴァーデン館には,新築の塔があり…
主人公の前に現れたふたりの少女の正体は,うすうす見当がつきますが,それがはっきりとする雪の上を3人の少女が歩く場面は,眼前にその光景が浮かび上がるような,ファンタジックな美しいシーンですね。ラスト直前の緊迫感も好きです。
フィッツ=ジェイムズ・オブライエン「なくした部屋」
夜の散歩から帰ってくると,“わたし”の部屋には見知らぬ男女たちが…
どこか不条理劇を思わせる1編です。主人公にとって「部屋」を失うということは,作品前半で縷々描かれているように,彼自身の想い出―人生そのもの―を失うことに他ならないのでしょう。そう考えると結末の持つ重苦しさにはたまらないものがあります。
ラドヤード・キップリング「『彼等』」
偶然,自動車で訪れた森の中の館には,盲目の美しい女性と“彼等”がいた…
今回の再読で唯一記憶に残っていた作品です。それはおそらくネタそのものよりも,描かれる美しい牧歌的な情景と,怪異をもたらした盲目の女性の孤独さによるものでしょう。「死後の魂」は神に属するものとする考え方のもとでは,彼女は「罪人」なのかもしれませんが,そう言ってしまうには,あまりに彼女の姿は哀しく,痛々しいものがあります。
01/03/05読了
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