田中文雄『怪談学園』飛天文庫 1997年

 前にもちょこっと書きましたが,最近の文庫本の誤植の多さには目を覆いたくなるものがあります。とくにこの本は,ひどいです。腹が立つほど,ひどいです。なにしろ登場人物の名前が途中で変わってしまいます。「勇作」「優作」になるわ,「二三彦(ふみひこ)」「文彦」になるわ。まあ,ここらへんまでは,いかにもワープロの変換ミスという感じですが,なんで,「和也」「史郎」になるんや! どうしたら,こんな間違いできるんや! いろいろな文庫が出ることは読者にとってはうれしいことですが,きちんと商品としての自覚をもって,出してもらいたいものです。今回は,さすがに怒り心頭に発しました。ええかげんにせえよ! 

 さて内容ですが,オーソドックスな怪談から,奇妙な話,不気味な話などなど,7編よりなる短編集です。

「怪談学園」
 中学生の駒場勝子は人形フリーク。そんな彼女が,理科教材室の人体模型に魅了され…
 巷間に伝わる「学校の怪談」で,理科教材室の人体模型というのは,定番中の定番ですが,この作品では,そこに少女の淡い性幻想のようなものをからめて,不気味な雰囲気を醸し出しています。
「時の落ち葉」
 ホームレスが銀行に30万円を預けたいと言ってくる。ところが,その紙幣は終戦直後のものだった…
 結末が「理」に落ちている点で,ホラーというよりミステリに近いですが,奇妙で不可思議な雰囲気を持った作品です。本作品集では一番楽しめました。ただこの作品,どこかで読んだことがあるような気がするんです。別の短編集かアンソロジィで読んだのかな? それとも既視感?
「首なしバレリーナ」
 高校生・武田忠雄は,毎朝見かける少女・三井麗子に恋するのだが…
 これもまたオーソドックスすぎるくらいオーソドックスな怪談話です。結末で,一瞬「ほっ」とさせておいて,もうひとひねり,というあたりも,「いかにも」という感じです。
「瓶の中」
 50年ぶりに再会した実父は,死の間際だった。遺産目当てに父親の家を訪ねると,誰もいないはずなのに,どこからか視線を感じ…
 幽霊やモンスタは出てきませんが,ひどく不気味な作品です。形ならざる人間の情念とでもいうのでしょうか,古い家にはそんなものがあってもおかしくないのでしょう。父親の「金,返せ・・・」のシーンが一番怖かったです。
「魔像を穿つ」
 病院の改修工事現場で怪我をした同級生の山形は,それ以来,女性像を彫刻しはじめ…
 人形が動き出す,あるいは人形に命が宿る,というありきたりといえばありきたりな展開ですが,余韻を持たせたエンディングが,なかなかよいです。
「黄泉烏」
 父親が急死の報に実家に戻った史郎は,父親の日記の中に,自分と同じ夢が記されていることを知り…
 ううむ,毎年8月になるとテレビで盛んに放映される「怪談ドラマ」「因縁話」の類ですね。はっきりいって,陳腐です。
「根津怪談」
 美也子が夫と住む洋館には,もうひとり誰かが住んでいる? それは死んだはずの以前の持ち主では…
 これもホラーっぽくはありますが,どちらかというとサスペンスです。残念ながら,よく見かける類の。それからラストの美也子の心理は,ちょっと理解しにくいものがあります。

 (*o*)の作品もいくつかありますが,「時の落ち葉」「瓶の中」がけっこう楽しめましたので,全体としては(-o-)です。

97/08/04読了

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