井上雅彦『怪物晩餐会 怪奇幻想短編集 異形博覧会III』角川ホラー文庫 1999年

 久しぶりの「異形博覧会」は,7部構成,計27編よりなります。各部ごとにコメントしていきたいと思います。

「第1部 深夜のノック」
 「夜を奪うもの」「プレゼント」「たたり」「風が好き」の4編をおさめた第1部は,幻想的な雰囲気に満ちたショート・ショート集です。ラストのツイストが効いた「たたり」,語り手の正体を巧みにミス・リードする「風が好き」が個人的にはお気に入りです。
「第2部 アンバランスな」
 特撮ものの名作『ウルトラQ』へのオマージュにあふれた“怪獣もの”3編―「青畳」「パノラマ」「龍は茜色」―をおさめています(このタイトルは,『ウルトラQ』のオープニング・ナレーション「ここはバランスのくずれた・・・」に響き合うものでしょう)。とくに「パノラマ」は『ウルトラQ』とおぼしき番組そのものにまつわるホラーを描いていて,あのテレビ・ドラマに浸った世代としては,なんともうれしいです。わたしとしては,畳の中に住む“海魔”というシュールなイメージが楽しめた「青畳」がいいですね。
「第3部 怪物映画館」
 この作者お得意の「怪奇映画」ネタの作品―「晩餐」「模型」「緑魔来る」「D坂」―からなります。少々パロディ色が強く,いまひとつの感も残りましたが,「D坂」の構成の巧さとラストの不気味なイメージが好きです。
「第4部 鉤爪の抉るもの」
 「第2部」の“怪獣”とは異なる「モンスタ」「異形のもの」を描いた作品のコーナーです。本書中一番楽しめました。「怪鳥」は,すべて「証言」から成り立っている作品で,「理外」のモンスタを描きながらも,ラストでのミステリ的なツイストが楽しめました。海の別荘を訪れた男女が遭遇するグロテスクな恐怖を描いた「海妖館」は,なんといってもメタ趣向の卓抜な構成にのけぞりました。「みちみち」という擬態語も不気味な効果を上げています。「不在の蛇」では,「包装」という行為が持つ,「飾る」と「隠す」というアンビヴァレンツな意味を,男女の愛憎を絡めて不気味な怪談に仕上げています。
「第5部 幻獣辞典」
 タイトル通り,「キマイラ」「スキヤポデス」「トリフィド」といった「幻獣」をあつかった作品を集めています。2頁の掌編ながら,ブラックなアイロニィに満ち満ちた「ある有名な怪物」や,宮沢賢治の作品群を換骨奪胎,異形に再構築した「空気獣」なども楽しめましたが,「比喩のなかの幻獣園」の着眼点の凄さにはまいってしまいました。
「第6部 犯罪者の血を」
 タイトルから「サイコものかな?」と思いきや,犯罪者―より正確には殺人者をめぐる純ホラーです。主人公はいったい何者だったのか?と余韻を残す「誘惑者たち」,殺人鬼が住んでいた空き家で起こるスーパーナチュラルな惨劇を,グロテスクな映像的イメージで描いた「殺人鬼の家」,そして帰郷した男を待ち受けていた恐怖を描く「アムンゼン館」の3作を収録しています。とくに,ラストで「をを,そう来たか!」と唸った「アムンゼン館」が良かったです。
「第7部 異形の欧羅巴」
 これまたタイトル通り,「欧羅巴」(「ヨーロッパ」ではなく)を舞台にした作品4編―「むかし,お城で」「砂漠のサンドリヨン」「向こう側の生物」「吸血魔団」―を収録した最終部です。最後で,江戸川乱歩のある有名な作品へのオマージュだったのでは,と思わせる「むかし,お城で」も楽しめましたし,「現実」とフィクションとを融合させ,「最終兵器」としてフィクションの凱歌を歌い上げた「向こう側の生物」もグッドでした。

98/08/15読了

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