キャロル・オコンネル『クリスマスに少女は還る』創元推理文庫 1999年

 クリスマスに近いある日,ふたりの少女が姿を消した。州副知事の娘と,ホラー・マニアの問題児。営利誘拐か? それとも異常者による拉致か? その手口は,15年前のクリスマスに発生した少女殺害事件を人々の記憶から蘇らせる。しかしその犯人は服役中のはず。そしてクリスマスの朝は日一日と近づいてくる・・・

 『このミス2000』海外編第6位,ネット上でも評判のいい作品です。評判通り,楽しめた作品でした。

 物語はいくつかの流れから構成されます。ひとつは警察サイド。ルージュ・ケンダル刑事と,犯罪心理学者アリ・クレイを中心とした流れで,誘拐された少女ふたりの行方を追います。もうひとつは誘拐された少女たち―グウェン・ハブルサディー・グリーン―が,監禁された場所から脱出しようと奮闘するストーリィです。こういった,「追うもの」と「追われるもの」とを交互に描きながら緊迫感を高める手法は,「誘拐もの」ではしばしば見られる構成ですが,この作者は,描写を少女たちの姿に限定し,犯人の姿を周到に覆い隠しています。そのため,「犯人は地元の人間である」という設定が,比較的早く明らかにされることからも,「犯人は登場人物たちの中にいるはず」という謎が,物語の強い求心力になっています。
 さらに作者は,もうひとつの謎を挿入します。それは,15年前のクリスマスに発生した少女殺害事件です。その事件の犯人はすでに逮捕されているのですが,この事件が今回の誘拐事件とどのように関わるのか? という謎が加わることで,「追うもの」と「追われるもの」というシンプルなストーリィにはないふくらみを与えています。あわせて15年前の事件の被害者を主人公の双子の妹とすることで,この事件を通じての彼の苦悩と成長をも描き出しています。

 一方,構成的には「追うもの」と「追われるもの」という単純な対立を排しながら,描写的にはさまざまな「対立」あるいは「対照」を導入することで,物語の展開にメリハリを与えているように思います。たとえば,事件について何かを知っているらしい,極度に内気な少年デイヴィッド・ショアが心を開くシーンを感動的に描いたすぐあとで,監禁された少女たちの苦闘が描き出されます。ふたつの「子ども」をめぐる描写のコントラストが鮮やかです。また捜査が行き詰まり,なにもかも放り出しそうになるコステロ警部の姿と,雪降る中,無言のまま「PLEASE」と書かれたポスタを掲げる群衆の姿とを描くシーンも,静謐でありながら,じつに印象的でインパクトのあるシーンです。
 そのほか,犯罪心理学者アリの存在も,ありがちな「解説役」にとどまることなく,ストーリィ的にも,またプロット的にも深く結びつくよう処理しているところは,思わず拍手したくなるような見事さでした。伏線もきっちりと引かれてますしね。

 ただ最後に明かされる「真相」については,これだけきっちりとまとまった物語を,より高次へ昇華させているとするか,あるいは壊しているとするか,人によって評価がわかれるのではないかと思います。わたしとしてはオーケーでしたが・・・

00/02/20読了

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