鮎川哲也『五つの時計』創元推理文庫 1999年

 この作者の初期短編10編をあつめた作品集,編者は北村薫です。気に入った作品についてコメントします。

「早春に死す」
 東京駅八重洲口に近い工事現場で発見された男の死体。しかし容疑者には完璧なアリバイがあり…
 時刻表をひねくり回した「アリバイもの」というのは,あまり好きではありませんが,アリバイ・トリックの扱いをもうひとひねりしていて,逆転の発想が楽しめました。鬼貫警部が真相に気づくシーンも面白いですね。
「道化師の檻」
 ジャズ・バンドのメンバのひとりが殺された。目撃された怪しい道化師は密室状況から姿を消し…
 設定といい,登場人物といい,けれん味たっぷりの本格ミステリですね。これまた発想の転換をベースにしながら,シンプルなトリックで不可能状況を作りだしている点,すっきりしていて楽しめました。
「薔薇荘殺人事件」
 小栗虫太郎の「黒死館」を模した薔薇荘で連続殺人事件が…
 「問題編」と「解決編」からなる「推理クイズ」として書かれた作品です。そのせいもあってか,トリックとともに,作者が施した「仕掛け」が楽しめる作品です。「あれ? ちょっと変だな?」と思ったところもあったのですが,すっかり騙されてしまいました。花森安治の「解決編」が,じつに適切な「解説」になっているところも楽しめました。
「悪魔はここに」
 台風で隔絶された山荘で連続殺人事件が発生! 現場には「逆さ」なったものが常に置かれ…
 なぜ現場に「逆さ」に置かれたものが残されているのか,という,エラリー・クイーンを思わせる^^;;作品です。その理由は,ちょっと苦笑させられるところもありますが,筋が通っていて説得力のあるものだと思います。ただラストが「2時間サスペンス・ドラマ」みたいな感じで興を殺ぐところもあります。それにしてもこの作者,女性に対する根強いコンプレックスがあるようですね^^;; 正直読んでいてかなり見苦しいものを感じます。
「急行出雲」
 大阪で起こった殺人事件。その容疑者は「急行出雲」に乗っていたとアリバイを主張するが…
 この作品はタイトルだけは耳にしていたのですが,読むのははじめてです。普通アリバイものというと,犯人のトリックを見破るのが眼目ですが,この作品は,アリバイを消したトリックを明らかにするという点で,ちょっと趣を異にしています。盲点をついているトリックとはいえ,なかなか描き方が難しいですね。

98/05/14読了

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