井上雅彦『ハイドラの弔鐘』ワニノベルズ 1996年

 映画館で起こった暴走族虐殺の惨劇。居合わせた刑事・滝村洋次はそこで失踪した妻・陽子の姿を見る。そして暴走族のひとりが逃げ込んだ病院にもやはり「ヨウコ」と名のる看護婦が・・・。滝村たちの捜査の背後にちらつく,さまざまな「ヨウコ」の影。そして「ヨウコ」が姿が見せるところで,つぎつぎと起こる惨劇・・・。暴力団,自衛隊,警察が,それぞれの思惑を秘め,「ヨウコ」を追う。「ヨウコ」とはいったい何者なのか?

 井上雅彦というと,角川ホラー文庫の『異形博覧会』や『恐怖館主人』といった短編集を読んだことがあります。短編集は,面白いのもあれば,つまらないのもある,といった感じでしたが,けっこう気に入ってました。で,長編が出ていたので読んでみました。

 が,はっきりいって「なんじゃこりゃ?」という感想です。いかにも安手のSFXを使ったような描写やモンスターたち,マッドサイエンティストのような医者,鬼面人を驚かすようなスプラッタ,B級ホラーSF映画を地で行くような小説です。おまけにラストといったら,よく恥ずかしげもなく,こんな種明かしを使う気になったな,というくらい,陳腐です。SFX技術の進歩は,SF映画やホラー映画の,少なくとも映像的な迫力を格段に進歩させたと思います。しかしその一方で,ストーリー的には,D・R・クーンツじゃありませんが「恐怖の金太郎飴」になっている作品も多々あります。それに近い内容を,ストーリーが物語の魅力の多くを占める小説でやると,情けなさが二乗されてしまいます。小説には小説の「恐怖」の表現があると思います。

97/03/09読了

go back to "Novel's Room"