我孫子武丸『腐蝕の街』双葉文庫 1999年

「私達はみんな病気だよ。町が病んでるんだ。そこに住む人間が健康でいられるわけがない」(本書より)

 西暦2024年――かつて“私”が逮捕し,死刑台へと送り込んだシリアル・キラー『ドク』こと菅野礼也。ところが,彼の死刑執行直後,きわめて類似した殺人事件が発生,現場には“私”に対する挑戦状ともとれるメモが残されていた。『ドク』は死んでいなかったのか? それとも蘇ったのか? 腐った欲望が渦巻く巨大都市・東京の夜を,不良少年シンバとともに,“私”は駆ける・・・

 本編にはシンバと名乗る少年が出てきます。14歳の美形の男娼,恐るべきナイフの使い手で,10歳のときに,虐待する父親を殺したという過去を持ちながら,それでいてナイーヴで純な子どもの心も併せ持ったストリート・キッズです。すでにお気づきの方もおられるんじゃないかと思いますが,このように書くと,どうしても「あの少年」を想起しないではいられません。そう,『BANANA FISH』の主人公アッシュ・リンクスです。とういうわけで,わたしは本書を,吉田秋生の絵柄を思い浮かべながら読んでしまいました^^;; 当然シンバはアッシュ,で,主人公の“私”は,ロボだったりします・・・

 さて物語の舞台は近未来の東京,現在,日本の大都市が抱えている問題がより増幅,肥大しているようなシチュエーションで,また出てくるさまざまな小道具も,ぶっ飛んだものというより,今日のわたしたちの日常生活にすでに現れているものの延長線上にある感じです。まぁ,メイン・トリック(?)は,いかにもSF的ではありますが・・・^^;;
 しかし,設定はSF的とはいえ,ストーリィの展開そのものはオーソドックスなサスペンスといったところです。赤羽署管区で起きた残虐な殺人事件,それは死刑で死んだはずの猟奇殺人犯の手口がうりふたつ。しかもその殺人犯の死体は,解剖のため,拘置所から東大医学部に運ばれる途中,行方不明になっていた,と,オープニングはじつにミステリアスです。その謎を,主人公である“私”溝口警部補と,片山巡査部長が追うわけですが,(多少,都合がよすぎるところもあるものの^^;;)スピーディな展開でさくさくと読んでいけます。とくに,『ドク』の記憶が,ディスクに保存されている可能性が想定され,いつ,いかにして保存されたのか,というところの着眼点と展開はすっきりしていて,なかなか楽しめました。
 また主人公をはじめ,恋人の片山巡査部長や,ふとしたことで知り合った不良少年シンバなども魅力的なところがいいですね。とくにシンバが,自分の偽りの半生を主人公に語るシーンは,このキャラクタの隠された一面をじつに的確に描写していると思います。

 この作品には,『死鑞の街』という続編があるそうです。今回,ホラー的な余韻を残したラストがどのように展開するのか,楽しみですね。それと主人公と片山,シンバとの三角関係(?)もどうなるのかな?

98/03/22読了

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