多島斗志之『不思議島』徳間文庫 1999年

 15年前,何者かに誘拐され,無人島で恐怖の一夜を過ごした二之浦ゆり子。瀬戸内,伊予大島で中学教師をつとめる彼女は,島に来た診療所の医師・里見と出会って以来,彼とともに,誘拐事件の真相を突き止めようとする。だがそれを妨害するかのような振る舞いを繰り返す家族たち。いったい誘拐事件の裏にはなにが隠されているのか?

 う〜む・・・なんだかなぁ・・・。いまひとつ読んでいて「乗れない」感じでした。ひとつには,物語の冒頭で提示される謎―15年前の誘拐事件の犯人は誰か?―が,それほど強烈な魅力的な謎として描かれていない印象を受けます。主人公のゆり子と,医師里見とのラヴ・ロマンスがメインに描かれているようで,そこに中世,瀬戸内を支配した村上水軍の歴史が絡んできます。それはそれで伏線でもあるのですが,正直,「トラヴェル・ミステリ」を思わせる冗長さがあります。またどこが問題なのか? という謎の焦点がなかなか絞られないため,主人公たちの行動の目的がいまいちはっきりせず,物語を押し進める牽引力が弱いように思いました。

 またメインとなるトリックなんですが,要するに「知らなければわからない」系のトリックで,「ああ,そうですか」としか言えないように思えます。またそのトリックを必要とする「謎」の提示の仕方も,本編の「核」となる部分であるにもかかわらず,バタバタしている感じで,読者を引きつける吸引力に欠けるのではないでしょうか? さらに謎解きの際に,あらためて「あれ」が出てくるので,なにかこう「ずるい」と言いたくなるような不満足感が拭えません。最初から「あれ」を出しておいても不都合はなかったのではないかと思います。

 ただ,ラストにおいて,二転三転しながら真相が明らかになるところは,伏線が効いていて楽しめましたし,また主人公のある行動の描写が効果的で,「どきり」とする驚きを感じました。ただそれもメロ・ドラマ的というか,演歌的なエンディングで,せっかくの驚きも萎えてしまった感があります。

98/07/14読了

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