新津きよみ『震える家』角川文庫 1993年

 夫が大阪に二泊三日で出張の日,七ヶ月の息子とふたりきりの周子の家に,コンビニ強盗が逃げてきた。外部との連絡を絶たれた家の中で,強盗との恐ろしい1日が過ぎていく。一方,連続婦女暴行事件の現場からは,襲われたコンビニと同じ指紋が発見され・・・。

 『角川ミステリーコンペティション』の中の1冊です。このコンペティションには,折原一の『天井裏の散歩者―幸福荘殺人日記』も入ってますから,夫婦でエントリィしていたんですね。

 相変わらず,どうもいまひとつ焦点がはっきりしないですね,この作者の作品は。まぁ,読む方も,カバー裏の「あらすじ」を読んで,立て籠もった強盗犯と主人公との恐怖の一夜,という感じで,物語の最後まで,家の中での主人公と強盗との駆け引きやらなにやらが描かれるのだろう,などとと勝手に思っていたせいもあるのでしょう。ところが案に相違して,それはあくまで前半部で,後半はむしろ連続婦女暴行事件の方にウェイトが置かれ,主人公がそれに巻き込まれていくストーリィ展開になっていきます。じゃぁ,前半と後半とはどうつながるのか,というとネタばれになるので書けませんが,正直,木に竹を接いだような印象が残ってしまうのは否めません。話の途中に挟まれる夫・直人の浮気をめぐる主人公の疑惑なども,主人公の困惑や不安を盛り上げる小道具なのでしょうが,物語全体の中ではどうも浮いた感じがしてしまいます。おまけに「エピローグ」の,とってつけたような「心理学的な説明」はいただけません。せっかく日本では珍しい犯罪心理学の博士号をもった刑事というキャラクタを設定しているのですから,もう少し文中で生かすような形で描けなかったのでしょうか?

 それと女性心理を描くサイコ・サスペンスというと,この作者だけではないのでしょうけれど,「専業主婦vsキャリア・ウーマン」という図式で描かれる場合が多くて,そこらへんも食傷気味なところがあります。おそらくこのような図式は,実際に数多くあるから取り上げられることも多いのでしょうが,「女の敵は女」みたいな「社会通念(共同幻想)」を拡大再生産しているみたいで,陳腐な感じがしてなりません。
 「女性心理を巧みに描く」というのは,結局,「世間で定型的と言われている女性心理」を描くことになってしまっているんじゃないでしょうか?

 でも,また文庫化されたこの作者の作品を見つけたら,読んでしまうような気がします。それこそホントの“サイコ・ミステリ”(笑)

98/05/03読了

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