半村良『不可触領域』文春文庫 1976年

 古本屋で購入した1冊。中編1編,短編1編がおさめられています。
 半村作品を読むのは何年ぶりでしょうか・・・。『産霊山秘録』や『石の血脈』,『妖星伝』,「伝説シリーズ」など,一時期むさぼるように読んでいたのですが,いつのまにか読まないようになってしまいました(°°)(<「遠い目」という,ぐりさん@いが栗の里がお作りになったフェイス・マークです)。

「不可触領域」
 婚約者の敬子とともに,車で東京へ戻る途中,伊島は濃い霧に行く手を阻まれる。その霧の中から突如現れた豹。そして迷い込んだ研究所のような建物には3人の男の死体が! 敬子の伯父・駒田嘉平が実権を握る中原市に隠された秘密とは…
 霧の中の豹,自殺と思われる3人の死体,駒田嘉平をはじめとする中原市首脳部の不可思議な行動,それ以来伊島の周囲に出没する奇妙な人々・・・,と,前半部はなかなかミステリアスな展開です。そしてしだいに陰謀が明らかにされていきます。政治家をからめての“SF伝奇”は,この作者の十八番でしょう。その過程で出てくる「なぜナマケモノは,生存競争が熾烈な自然界で,絶滅することなく生き延びることができたか?」のSF的解釈も楽しめます。
 そうなんですよねぇ。途中まではぐいぐいと読み進めていけるんですよね。で,事件の真相も,まぁそれなりにおもしろいと思うんですが,その描き方がどうも・・・・。
 とにかく,セリフ,セリフ,セリフ,セリフ・・・なのです。事件の黒幕が,ことの裏側をとうとうと述べ立てる。主人公もまたそれにとうとうと反論する。凡庸な右翼と教条的な左翼の口論を聞いているようで,はっきりいって味気ないです。たとえ登場人物たちが,そういう考え方を持っていたとしても,それを“物語”として描き出してもらいたいなぁ,というのが正直な感想です。う〜む,ページ数が足りなかったのかなぁ?
「虚空の男」
 かつて新進気鋭のデザイナとして活躍していたにもかかわらず,デザイン界から身を引き,貧乏しながらも,もとからの志望であった油絵に専念する友人の伊丹。そのきっかけは“虚空の男”を見たからだという…
 この作品も,話を思いっきりミステリアスに,大きくしてはいるんですが,最後のオチがどうも腰砕けといった感じです。説得力がないですねぇ。その落差を楽しめないことはないのでしょうが,わたしとしてはもの足りなかったですね。

 そういえば,半村作品って,ストーリィの展開はおもしろいんだけど,ラストの着地がいまいち決まらない,といった傾向があったような・・・たとえば『妖星伝』とか(半村ファン,ご容赦!)。

98/02/13読了

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