山崎洋子『ホテル・ルージュ』集英社文庫 1997年

 おもにホテルを舞台としたサスペンス&ホラー,8編よりなる短編集です。

「青い髪の人魚」
 客を厳選する「ホテル水晶・渋谷」に泊まったひとりの女。彼女の目的は,ホテルに飾られたT・陣羽の描いた1枚の絵を探し出すことだった・・・。自分の人生を他人に語らせることによって,オチを効かせています。事件そのものも不気味ですが,それをふたたび公表しようとする主人公の心理の方も怖いです。
「スペシャル・ルーム」
 高級ホテルに泊まったひとりの老婆。あまりの場違いさに,ホテルの従業員は,怪談を利用して追い出そうとするが・・・。オーソドックスな怪談です。オーソドックスすぎて面白味がありません。
「十三怪談」
 なかなか目のでない作家志望の女が,ホテルに出る幽霊を取材して,一発あてようとするが・・・。なんとも突飛な設定です。平凡な幽霊の人生(?)を,なんとか劇的にしようと四苦八苦する主人公が笑えます。最後のひねりはおもしろいですが,最後の最後がちょっと不自然かな。
「暗黒街の淑女たち」
 「とうきょうのおんなたち」というルビがふってあります。出勤したら,勤め先のテレビ番組制作会社がつぶれていた。おまけに社長の死体が! そこに大口のプライベートビデオの制作依頼。女ふたり,退職金がわりにと制作を引き受けるが・・・。たくましい女たちの奮闘をコミカルに描いています。「2時間ドラマ」的ではありますが,それなりに伏線も引かれており,結末もひねっています。最後の一文「ほんとうの事件はこれからだ」には,笑ってしまいました。
「ホテル・ルージュ」
 とうに愛の冷めた愛人と訪れたパリ。衿子は,12年前の想い出を求めて,ホテル・ルージュを訪れるが・・・。最後がちょっと唐突です。もう少しひねりを期待していたのですが。
「孤独な妖精」
 恋人と別れ,気分転換にホテルに泊まった恵理子は,ひとりの少女と出会う。少女は,自分は人間と妖精の混血と名乗り,魔法を使うという・・・。奇妙な出来事とその論理的な解決,という意味で本格推理といっていいでしょう。結末も含みがあって好きです。
「あたしを見つめて」
 ひとり暮らしの老婆が,誰かに見つめられ,殺意を抱かれていると,ボランティアの女性に訴えるが・・・。サイコ・サスペンスで一人称で語られるときは,主人公が本当のこと,あるいは現実のことを語っているかどうか,つい身構えて読んでしまいますが,それでもなおかつ「やられた」と思うときがあります。これは,そんな作品のひとつです。その作品集では一番楽しめました。
「匂い袋」
 不倫相手との情事の終わりに,彼女は過去を思い出す・・・。なんだかなあ,という感じです。「手旗信号」というのはおもしろかったのですが,単なる思い出話のような気がしないでもありません。

97/04/29読了

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