ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』創元SF文庫 1980年

 2028年,月面上で発見された,深紅の宇宙服を着たミイラは,年代測定の結果,5万年前のものと判明した。“チャーリー”と名づけられたそのミイラは,人類なのか,それとも異星人なのか? 科学者たちの間で論争を繰り広げられる一方,木星の惑星ガニメデでは,地球のものではない宇宙船が発見され・・・

 たしか,ともさん@Mystery Best???の掲示板だったと思いますが,どなたかが,SFミステリの古典として,アシモフ『鋼鉄都市』とともに,本書を挙げられていました。『鋼鉄都市』の方は,はるか昔に読んだことがありましたが,この作者の作品というと,星野之宣がマンガ化した『未来の二つの顔』くらいしか読んだことがありませんでした。で,書店で見かけたので,さっそく購入,読んでみたわけです。
 本作品がSFとしてどういう評価を受けているのかは知りませんが,わたしとしてはむしろ壮大な「幻想の古代史ミステリ」「架空の考古学ミステリ」として楽しめました。

 物語は,月面上で発見された5万年前のミイラという,魅力的な謎からはじまります。彼“チャーリー”は,形質的には地球人類とほぼ同じであるにも関わらず,彼が携帯していた物品は,地球文明と大きくかけ離れている,チャーリーは人類なのか? それとも異星人なのか? 科学者たちの間で議論が繰り広げられます。この議論は,やや専門用語が飛び交う退屈な部分がないわけではありませんが,つぎつぎと新しい謎と新しい仮説が出され,ときに却下され,ときに補強されていくプロセスは,まさにミステリにおける推理合戦のような趣があり,じつにエキサイティングです。
 とくに解読されたチャーリーの「日記」がはらむ矛盾,惑星ガニメデで発見された異星人「ガニメアン」の宇宙船は,チャーリーの謎にどのように絡むのか,などなど,作者の手がかりの提示の仕方がなんとも巧みで,ストーリィ展開にリズム感を与えるとともに,謎が謎を呼ぶサスペンスを盛り上げています。

 そして,ラストにおいて,すべての謎は,主人公であるヴィクター・ハントによって解かれるのですが,そのシーン―この問題に関係する科学者を前にして,自分の仮説を説明するシーンは,それこそ「名探偵,皆を集めて,さて,と言い・・・」といった感じで,「にやり」とさせられます。でもって,その謎解きがまた,物語の前半に引かれた伏線を巧みに用いての,新本格派もかくや,といわんばかりの「大技」です。そのアクロバティックな着地には,思わず溜め息が出たほどです。
 おまけに,その「解決編」を受けて,もうひとつの「どんでん返し」が用意されているところもすぐれてミステリ的です。それも,きちんとした「枠組み」を踏襲することで提示された,フェア・プレイにのっとった「どんでん返し」と言えるでしょう。キャラクタの配置にも心憎いものがあります。
 SF特有のガジェットやアイテムにさえ慣れれば,ミステリ読みにも充分楽しめる作品ではないかと思います。

 ところで,アフリカで発見された,人類の祖先の女性人骨には「ルーシー」と名づけられましたが,本書の「チャーリー」もそこからの発想なのでしょうかね?

00/02/27読了

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