今野敏『蓬莱』講談社ノベルズ 1996年

 古代の日本を舞台とした国づくりファミコンソフト「蓬莱」の発売直前,ゲームソフト会社社長・渡瀬は,暴力団からその発売を中止するよう,脅迫される。そして「蓬莱」のプログラマー・大木が駅で転落死。さらに警察による強引な家宅捜査,銀行からの取引停止要求など,つぎつぎと会社にかかる圧力。渡瀬は,暴力団の脅迫に立ち会っていた男が,保守系政党の大物議員であることを知る。いったい「蓬莱」にはなにが隠されているのか? 古代日本と現代の政治,そしてファミコンゲームを結ぶ糸とは?

 いや,なかなかおもしろかったです。ゲームはまったくといっていいほどやらない(やったことのない)わたしですが,RPGと伝奇小説というのは,ともに「仮構された歴史」を志向する点では,けっこう共通点が多いのかもしれません(RPGを詳しく知らないので,間違っていてもつっこまないでください)。この小説の場合,それに加えて,現代の政治家の思惑も加味している分,物語に緊迫感が出ています。登場人物のひとり,政治家の「本郷征太郎」というのは,やっぱり,あのポマード頭の現首相がモデルでしょうね。

 「『蓬莱』に隠されているのはなにか?」という謎を中心に,ストーリーの展開はスムーズで,伝奇小説には宿命的に出てきてしまう「解説部分」「説明部分」の間に,さまざまな事件がはめ込まれ,物語にめりはりがついていて,飽きが来ません。また,登場人物,とくに脇役勢がなかなか個性的で,そのことも物語を楽しいものにしています。それとクライマックスシーンでの,限られた時間を設定するあたりも,終局の緊迫を高めているのではないでしょうか。ゲームのことをほとんど知らないわたしにも,十分楽しめました。きっと,ゲームそのものの描写を変に詳しくしなかったことが,よかったのでしょう。ただ難を言えば,物語の進行がスムーズすぎて,ご都合主義的な部分がないわけではありません。渡瀬が黒幕の正体に気づくところとか,バーテンダー坂本の存在とか。それから「悪玉」の最後,ちょっとあきらめがよすぎるんでないかい?

 この物語の,おそらく最大のフィクションは,「本来の日本人」とか「歴史を越えて受け継がれる日本人の本質」とかいう考え方そのものじゃないですかね。

 関係ないですが,鹿児島にも徐福が来たという伝説があるそうです(笑)。それと,これも関係ないですが,「蓬莱」という漢字が,一発で変換してしまったことに驚きました。おそるべしATOK9。

1997/04/02読了

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