ジョン・コリア『炎のなかの絵 異色作家短編集6』早川書房 1961年

 ミステリとも,ホラーとも,SFとも,ファンタジィともつかぬ,いや逆に言えば,ミステリでもあり,ホラーでもあり,SFでもあり,ファンタジィでもある,まさに「奇妙な物語」を集めたシリーズの1冊。文庫化を切望していながら,いまだかなわないシリーズです(『アルジャーノンに花束を』もついに文庫化されたので,もしかして,とも思っているのですが)。
 計20編を収録。素材的,オチ的に古めかしさは否定しようもありませんが,この手の作品の「味わいどころ」は,やはりなんといっても「語り口」でしょう。気に入った作品についてコメントします。

「ささやかな記念品」
 丘の上に住む老人に会った青年は,老人の“博物館”を見せられ…
 老人が“蒐集”しているもの…それは,小さな村の中の「秘密」であり「悪意」なのでしょう。奇妙なコレクションを解説しながら,その端々に青年夫婦の「生活」を,挟んでいき,ラストへと引っ張っていく手腕はお見事。
「ある湖の出来事」
 突如,大金を手にしたビーズリイ氏は,妻とともにアマゾンへおもむき…
 結局,主人公をアマゾン奥地へ誘ったのはペテン師だったのでしょう。にもかかわらず,その「ペテン」が現実化してしまう。しかし現実化したことを主人公もペテン師さえも知らない,そのギャップが,文字通り「奇妙さ」を醸し出しています。
「旧友」
 妻の死んだ夜,彼は旧友と20年ぶりに再会する…
 オチは読めるのですが,主人公の妻に対する屈折した想い,それゆえに生じる罪悪感などが,奇怪な状況に,すんなりと彼を馴染ませていくという展開は,うまいですね。
「マドモアゼル・キキ」
 酒場に棲む老猫キキは,嵐の到来を予見する力を持ち…
 動物を擬人化した作品は,じつはあまり好きではないのですが,猫ゆえに持つ「超能力」を巧みに用いながら,ある意味,人間以上にグロテスクでビターな物語を産み出しているところが,楽しめました。
「スプリング熱」
 売れない彫刻家は,みずから作ったリアルな人形で腹話術師を目指すが…
 ストーリィはきわめてスーパーナチュラルなのに,登場人物たちがそれを「当たり前」のこととして受け入れ,展開していくところが,なんとも奇妙な手触りを感じさせます。ラスト,主人公が作る「もの」が哀愁を帯びています。
「鋼鉄の猫」
 デーヴィスは,自分で発明したネズミ取りを,なんとか売り込もうとするが…
 人生にしばしば起こるであろう「苦み」を,“実用鼠”ジョージによって,見事なまでに鮮やかに形象化しています。皮肉な幕引きも,ストーリィをピシッと締めていていいですね。本集中,一番楽しめました。
「雨の土曜日」
 娘の犯した殺人を隠すため,父親は一計を案ずるが…
 父親は,娘の犯罪をどうするつもりなのか,という関心にひっぱられ,思わぬ展開に驚きながらも,ラストでストンと落ちる,そのスムーズな筋運びが楽しめます。
「保険のかけ過ぎ」
 深く愛し合う若夫婦は,互いを失うことを極度に恐れるあまり…
 「愛は盲目」あるいは「若さゆえの無思慮」…などといった「をじさん」の黒い嗤いが聞こえてきそうな皮肉な物語です。そん二人の姿に苦笑してしまうわたしも,やっぱり…(^^ゞ
「霧の季節」
 T−町にやってきた“わたし”は,双子の女性に出会い…
 詐欺師というのは,やはりこれほど「面の皮の厚さ」がないと,やっていけないのだろうな,と妙に納得してしまう作品です(笑) ラストで「おまえ,他人のこと,どうこう言えるのか!」と突っ込みたくなります^^;;
「死者の悪口を言うな」
 地下室で“作業”をしていた医師を,ふたりの友人が訪ねてきて…
 話が「どちら」に転ぶかわからない不安定さと,悲劇が,誤解や,ときには善意によってさえ産み出されてしまうという,作者のシニカルな視線が楽しめる作品となっています。
「炎のなかの絵」
 作家のチャールズは,大富豪と映画製作の契約を交わすが…
 ある,きわめて古典的な素材を,現代の映画界に挿入した作品。「選択権」というのは,いまひとつわかりませんでしたが,ユーモアたっぷりの会話と,そして何よりベリンダという,いかにも映画女優にいそうな,すっとぼけたキャラを配することで,テンポのよくストーリィを展開させているところがいいですね。
「少女」
 放浪癖のある男は,とある牧師一家を訪れ…
 会話のみから成り立っている作品です。その中では,何事も起こりません。起こりませんが,この物語の(描かれざる)後に,「何か」が起こる不安だけが,じんわりとにじみ出てきます。その理由は,妙に心配性的な雰囲気の両親の発言であったり,あるいはトレンヴィル氏の,一見あたりさわりのない,しかしそれでいて,どこか奇妙なセリフであったりします。もしわたしが感じていることが,作者の狙いだとしたら,その手腕は卓抜したものがあると言えましょう。

03/11/30読了

go back to "Novel's Room"