鮎川哲也編『本格推理12』光文社文庫 1998年

 このシリーズも12作目,1ダースであります。今回も,応募原稿から選ばれた13編がおさめられています。気に入った作品についてのみコメントします。

雨月行「閉じこめられた男」
 容疑者の男は,犯行時間,地震でドアの開かなくなった部屋に閉じこめれており…
 トリックそのものは,あまり感心できませんでしたが,探偵役が男が犯人であると確信するきっかけがいいですね。上手な伏線だと思います。
東篤哉「南の島の殺人」
 南の島に旅行中の友人からの手紙には,全裸で死んだ男の殺人事件が記されており…
 きわめて個人的な理由から気に入っている作品です。でもなんで気に入ったかを書くとネタばれになってしまいます(笑)。たいへんなんですよ,あれはほんとに・・・(<う〜む,ほとんど意味不明だ)。
光原百合「消えた指輪(ミッシング・リング)」
 鍵のかけられた浴室の脱衣所から指輪が消えた。誰が? なぜ? どうやって?
 指輪消失のトリックは日常の盲点を突いた感じで,楽しめましたし,また「なぜ消えたのか?」という謎の答も納得できるものでした。軽快な感じの文体も,最初はちょっと鼻につきましたが,慣れるといいですね。
寺崎知之「ホームにて」
 ホームから男が落ち,轢死。事故? 自殺? 殺人?
 ミステリとしては,いまひとつ物足りない部分もありますが,登場人物たちの会話が,どこか独特のユーモア(ちょっとブラックな味付けあり)が好きです。
荻生亘「DEATHE OF CROSS DRESSER−女装老人の死−」
 密室状態で老人が撲殺された。不思議なことに彼は女装しており…
 「被害者はなぜ女装していたのか?」の答は,なるほどと納得できました。巧い処理ですね。でも可能かどうかは別の問題ですけど。
石持浅海「地雷原突破」
 対人地雷撤去を求める市民集会で,ボランティアの男が地雷を踏んで爆死した!
 シンプルですっきりとしたトリック。会話を中心に進む緊張感のあるストーリィ展開。明確なメッセージ性。本格ミステリが社会性を取り入れてよくないはずはありません。本作品集中で一番楽しめました。
愛理修「霧湖荘の殺人」
 3年ぶりに集まった友人たち。ひとりの男が密室状態で殺害され…
 地味な作品ながら,きっちりまとまった密室ものだと思います。伏線がちょっと見え見えのところもありますが…

98/07/14読了

go back to "Novel's Room"