佐々木譲『北辰群盗録』集英社文庫 1996年

 函館戦争終結から5年,続々と開拓民が入植を進める北海道に,奇妙な盗賊団が出没しはじめた。彼らは「共和国騎兵隊」を名乗り,「戦争は続いている」と主張する。明治政府は,その盗賊団を鎮圧するため,元幕臣で,かつて函館軍として政府軍と戦った矢島従太郎を送り込む。いま,明治の“フロンティア”に戦いの狼煙があがる・・・

 解説で宮本昌孝が書いていますように,まさに「和製西部劇」であります。
 明治初期の北海道というのは,当時の日本にとっては“フロンティア”であり,内地から,あるものは一旗揚げようとして,またあるものは食い詰めて,はたまたあるものは官憲に追われ,多くの開拓民が流れ込んできます。さらに先住民であるアイヌ民族との軋轢・差別があり,政府の管轄が充分行き届かないため,アウト・ロウが跋扈し,力が支配する無法地域という顔も持っています。
 作者は,そんな,開拓時代のアメリカ西部を彷彿させる舞台に,旧函館軍の残党を復活させ,さらに彼らに元幕臣を対抗させるという,皮肉な,しかし胸躍るような設定を投げ込むことで,けれん味たっぷりのストーリィを展開させます。
 共和国騎兵隊を追う討伐隊内部での反目・軋轢,巧妙な騎兵隊の誘導と無能な指揮官のために自滅していく討伐隊,騎兵隊内部での内紛と殺し合い,苫小牧で執り行われる首吊りによる死刑,酒場での乱闘,そして,西部劇ではお馴染みのラストでのライヴァル同士の一騎打ちなどなど・・・作者は「これでもか」というくらいに,「西部劇アイテム」をストーリィの中に取り込んでいます。それほど熱心な「西部劇ファン」ではないわたしではありますが,容易に西部劇の定番シーンを思い浮かべることができ,サクサクと一気に読み通すことができました。

 また討伐隊の「相談役」として送り込まれた田村従太郎のキャラクタが,じつに生き生きとしていて,また味わいがあっていいですね。一方で,非情冷徹な軍人・戦略家として,共和国騎兵隊と丁々発止の戦い,駆け引きを繰り広げながら,その一方で,けして明治政府に媚びへつらうことなく,シニカルで冷静な眼で,明治という新時代を見つめています。彼の人物像と相照らすとき,共和国騎兵隊隊長の兵頭俊作も,理想家肌で,それなりに魅力的なキャラクタであるとはいえ,やや色あせるものがあるといえましょう。
 そして従太郎の,
「あの妄想は危険すぎる。根絶せねばならぬ」
という絶叫は,かつて志をともにした者たちを討伐せねばならない自分に対する絶望とも,また断ち切ったはずの過去の自分への共感ともとれる,哀しい響きが感じられます。

 この作品に先行して『五稜郭残党伝』という,同じく明治初期の北海道を舞台にした作品があるとのこと。そちらもぜひ読みたくなりました。

00/01/01読了

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