黒川博行『八号古墳に消えて』文藝春秋 1988年

 大阪の遺跡発掘現場で発見された死体。土砂に埋もれたその死体に付着した土は,遺跡の土とは違っていた。他殺として警察が捜査を始めた矢先,別の遺跡発掘現場で死者が・・・。写真撮影のために建てられた櫓からの墜死は事故か他殺か? 遺跡の発掘と大学のポストをめぐる殺人事件の真相は・・・。

 最近,古代史ブームとかで,遺跡の発掘ニュースを新聞やテレビでよく見ます。佐賀県の吉野ヶ里遺跡や青森県の三内丸山遺跡。鹿児島でも,上野原遺跡というのが,大きく取り上げられています。考古学者というと,土を掘り返して,土器やら石器やらを嬉々として集めている,少々浮き世離れした人物というのが,なんとなくイメージされますが,本書の中で,一遺跡の発掘に15億円もかかるという記述がありますので,これはもう「巨大事業」と言ってもいいのかもしれません。巨額の金が絡むと,なにやらよからぬことを考えてしまうというのは,考古学者もまた同じなのでしょう。

 さて内容ですが,大学同士の縄張り争いやら,ポスト獲得競争やら,大学人の犯罪というと,必ずと言っていいほどでてくるネタで,少々ありきたりな気もしますが,考古学という特殊な「業界」をあつかっている点では,それなりにおもしろく読めます。ただ物語の展開としては,いまいち楽しめませんでした。立て続けに起こる,殺人とも事故ともつかぬ事件,科学捜査や刑事の推理を通じて明らかにされるトリック,そして“意外な犯人”。遠隔殺人や偽アリバイといったトリックも使われるのですが,それらが小粒な上に,刑事によるその解明プロセスがくどいです。もう少しすっきりできないものでしょうか。またそれらが数珠繋ぎにたらたらとつながっているという感じで,盛り上がりに欠けるというか,メリハリがありません。物語を押し進める求心力みたいなものがないのでしょう。とくに犯人逮捕後の描写が冗長で,エンディングが「キリッ」としないのも,読後に不完全燃焼みたいな印象を残してしまっているように思います。全体的に,特殊な業界ネタに頼った「素材主義」みたいな感じがします。

 ところで,会話の中などで,主語に「は」や「が」をつけないのは,大阪弁の表現なのでしょうか? たとえば「史子,××に行った」といった書き方です。読んでいるうちに慣れましたが,最初の方では,主語なのか目的語なのか区別できず,どうも戸惑ってしまいました。

97/07/26読了

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