逢坂剛『ハポン追跡』講談社文庫 1995年

 現代調査研究所所長・岡坂神策は,ときには私立探偵まがいのこともする“なんでも屋”。とくに弁護士・桂本忠昭には頭が上がらず,なにやかやと顎で使われる。そんな岡坂が関わった事件,5編を集めた短編集です。

 赤江瀑小池真理子といった,短編でその本領を発揮する作家もいる一方で,短編より長編の方が持ち味を出しやすい作家もいるようです。この作者はおそらく後者に属するのだと思います。彼の短編集は『まりえの客』以来,2冊目ですが,どうも長編に比べると,楽しめません。この作品集についていえば,最後の謎の解かれ方が唐突すぎるような点が挙げられるかもしれません。いろいろと謎めいた展開があり,主人公がそれを追って行くわけですが,最後の結末が,なにか「解説」を読むような感じがして,はっきりいって味気ないです。考えてみれば,このような「落ち方」は「公安シリーズ」でもしばしば見られ,多少不満に思っていた点ですから,短編の場合,よけいそれが目についてしまうのでしょう。それとわたしは,主人公の性格,中途半端に気取っていて,ところどころいやらしさの見え隠れする性格が,好きでないせいもあるのでしょう。

「緑の家(カサ・ベルデ)の女」
 知り合いのマンションに契約違反の住人がいるので,調査してほしいと,桂本弁護士から依頼された岡坂が調査を始めると,その住人には売春の噂が…
 なんだか結末がやりきれないですね。最後で,二重三重の底の底が明らかにされますが,どんどん救いがなくなっていくようで…
「消えた頭文字」
 別居中の夫の連れ子で,血がつながらないにも関わらず引き取りたいという女の依頼を受けた岡坂は,娘の所在を探し始めるが…
 殺された被害者が「アイ・ティ」というダイイングメッセージを残すというミステリ仕立ての謎が出てきますが,その謎解きは,なんの知識のないものにとっては「ああ,そうですか」としか言いようがありません。
「首」
 体の不調から精神科にかかった女性が,担当の医師が産業スパイだから,調べてほしいと依頼され…
 なかなか魅力的な謎なのですが,これも結末が唐突すぎますね。それに14年間も放って置かれるとか,×××化してしまうとか,ちょっと想像しにくいです。
「ハポン追跡」
 スペインに残る「ハポン(=日本)」姓の一族。彼らは,400年前,ヨーロッパに渡った支倉常長一行の子孫なのか?
 その調査を依頼された岡坂ははりっきて調査に乗り出す。この作品集では,唯一楽しめた作品でした。やっぱり主人公が乗り気で調査していると,読者にもそれが伝わるのでしょうか。きちんきちんと出典を確認する岡坂(≒作者)の姿勢には好感が持てました。でもやっぱり結末は「解説」風でした。短編にはちょっともったいないネタのように思えます。
「血の報酬」
 土砂降りの夜,桂本弁護士に“アッシー君”を命じられた岡坂は,途中,とんでもない人物を乗せてしまい…
 展開はサスペンスフルですし,アクションシーンもあるのですが,これまた「解説」が多い。もう少しスムーズに書けないものですかねえ。長編だとそれがストーリー描写のなかに埋もれてしまい,それほど気にかからないのですが・・・。

97/05/01読了

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