泡坂妻夫『花火と銃声』講談社文庫 1992年

 美貌のマジシャン・曽我佳城が,マジック絡みの難事件を解いていくシリーズ7編をおさめた短編集です。アマチュア・マジシャンでもある泡坂妻夫の持ち味が,これでもか,というくらいに出ている作品集でしょう。ですから,マジックという「あんまり知らない世界を知る」という点ではたしかに楽しめました。

 たとえば「石になった人形」では,毒殺された腹話術師のバッグから,腹話術用の人形が消え失せ,代わりに石が入っていたという奇妙な謎が提出されます。それを佳城が解いていくわけですが,謎解きの鍵となる腹話術の技術については「へえ,そうなのか」という感じで,なかなか興味深かったです。また「だるまさんがころした」に出てくる“夢のエキスプレス”という,電車模型を使ったマジックも,一度見てみたいと思いました。

 ただ,この探偵役の曽我佳城,あまりに名探偵過ぎるというか,「なんで,そんなことまでわかるの?」と,つい疑問を持ってしまうようなところがあります。つまり推理のプロセスがよくわからない部分があります。たとえば「七羽の銀鳩」では,CM撮影用に借り出された佳城の銀鳩七羽が盗まれ,近くでショーを開催していたマジシャン艮(うしとら)三郎の鳩とすり替えられます。佳城は,なぜすり替えられたのかを推理していくわけですが,最後になって,その背後にある犯罪が,突然ポンという形で飛び出してきます。それまでの描写から,その犯罪の存在を推理するのは,なんだかすごく不自然に思えてしまいました。また同様に「剣の舞」でも,マジシャンとその助手の連続殺人事件を,偶然残されていた写真から,佳城は犯人を推理するのですが,これまた少々(?)突飛な感じが否めません。正直「これだけの手がかりで,なんでここまで?」といったところです。この手の“名探偵”にはちょっと鼻白んでしまうわたしです。
 あと「ジグザグ」も,「なぜ死体の胴部を持ち去ったのか?」という根本的な理由は納得できましたが,やっぱり「なんでそこまでするの?」という気持ちが残ってしまいました。「混乱する中で,ああするしか方法がなかったのです」という犯人のセリフもいまいち説得力がありません・・・。

 それでも,表題作「花火と銃声」はなかなかおもしろかったです。
 男が銃殺されたときは,ちょうど花火大会だった。隣の住人も花火の音に紛れて,銃声を聞いてはいない。唯一の容疑者にもアリバイがあり・・・。
 前半は,佳城に事件のあらましを説明する刑事の言葉だけから,なぜ彼女が警察が容疑者と考えている人物を特定できたか,という推理が明かされます。一見無意味に見える彼女の質問が,重要な手がかりとなっているあたり,おおっ! と感心してしまいました。また後半,アリバイのある容疑者が,なぜ犯行をなしえたかというトリックも,盲点を突いた巧いものだと思いました。  

 最後に一番不満だったのは,じつは表紙(笑)。作中,絶世の美女のように描写されている佳城なのですが,表紙で彼女を描いているのが高井研一郎,あの『総務部総務課山口六平太』の作画者です。この人の絵柄は,ほのぼのとしていていいのですが,ちょっと「絶世の美女」とはイメージが違いすぎるんですよねぇ。

98/01/20読了

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