ヘンリー・スレッサー『伯爵夫人の宝石』光文社文庫 1999年

 「短編の名手」と呼び声の高い,この作者の短編17編をおさめています。『うまい犯罪,しゃれた殺人』の頃に比べると(といっても,じつは「おもしろかった」という記憶しか残っていないのですが^^;;),ちょっと切れ味が鈍ったかな,と思えなくもありませんが,各編サクサクと読ませる筆力は健在です。
 気に入った作品についてコメントします。

「伯爵夫人の宝石」
 いけすかない新入社員ハロルド。“私”は彼の後ろ暗い過去を知り…
 当然予想されるラストのひとつなのですが,展開の仕方が巧いですね。また冒頭の一文が最後の最後で効いてくるところもグッドです。
「シェルター狂想曲」
 核戦争の危機に,三角関係の男女が核シェルターへと逃げ込み…
 なんでこんな登場人物をわざわざ入れたのだろうと思っていたところが,やはりラストで効いています。ネタそのものはありがちなところもありますが,描かれない「その後」を想像すると怖いものがあります。
「ハローという機械」
 理解のない妻に殺意を覚えた彼は,苦心の末に完成させたロボットを使って…
 日本語訳にしてしまうと,ちょっとわかりにくい感じもしますが,オチに至って,タイトルがまったく別の意味を帯びてくるところが「やられた」という感じでいいな,などと思っていたら,原題は“The Tin Man”という愛想のないもの。う〜む,翻訳者の勝利?
「ハーリーの運命」
 妻殺しを描いた投稿原稿の作者が死亡したという知らせを聞いたハーリーは…
 「人を呪わば穴ふたつ」の典型のような作品。前半での「原作者」の描写が,ラストを「なるほど」と納得させます。
「濡れ衣の報酬」
 連続婦女殺害犯に面接したフィルは,奇妙な話を始め…
 ストーリィの展開としては,ラスト付近で少々だれるところもありますが,「こういう手もあったのか」という,奇想とも呼べる発想の妙が楽しめます。
「内輪の秘密」
 ボスの原稿を盗み見たマークは,ある“事件”を調査し始め…
 オチそのものは大したことないのですが,現実に起こっていないことが,すでに「原稿」になっている,というシチュエーションがミステリアスですね。また,そこまでして「特だね」を取ろうとする登場人物のキャラクタも薄ら寒いものを感じます。
「取引」
 不倫関係にある女から,交換殺人を依頼されたトレヴィンは…
 少々危うい設定ではありますが,主人公のキャラクタ描写が効いていて,あまり不自然に感じさせません。

99/02/24読了

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