太田忠司『幻竜苑事件』徳間文庫 1997年

 200年前,名家・遠島寺家の主を喰い殺した竜が棲むという竜ヶ池。その池を擁する高級旅館“幻竜苑”では,10年前,謎の火災により主人夫婦が焼死していた。弟夫婦が犯人だと告発する主人夫婦の遺児・美樹の依頼をきっかけに,事件の調査を開始した野上英太郎と狩野俊介。その矢先,幻竜苑をふたたび襲う怪事件。野上・俊介コンビがたどり着いた事件の真相とは?

 『月光亭事件』に続く狩野俊介シリーズ第2弾であります。衆人環視下での犯人消失という不可解な謎に俊介が挑みます。まあ,トリックはかなりあぶなっかしいものだと思いますが,オーソドックスな本格物という印象です。ただ,『月光亭』と同様,素直な子供,理解のある大人,協力的な関係者,あきらめのいい犯人,と,かつては胸躍らせた「少年探偵団」然とした展開は,やはりちょっと物足りません(とくに本作では,物証らしい物証がないにもかかわらず,あまりにあっさり自白してしまう犯人)。べつにひねたガキ,無理解なおっさんおばさん,嘘つきの関係者,あきらめの悪い犯人が出てくる物語が,とりたてて好きだというわけではありませんが(笑)。やっぱり一種のファンタジーなんだろうなあ(まずいなあ,これじゃ『月光亭』と同じ感想だよ。でも同じだから仕方ないようなあ)。

 などと,悪口を言ってるくせに,また新作が文庫に落ちたら買ってしまうだろうという予感(それもかなり確実な)も,一方でしっかりとあって,アンビヴァレンツな魅力を感じていることも確かなのです。このシリーズは俊介のビルディング・ロマン的な側面も持ち合わせていて,多少甘っちょろい部分がないわけではないですが,今後の展開が気になっているところもあるからでしょう。俊介の持つ繊細さと,犯罪という欲望まるだしの行為との対決を,作者がこれからどのように描いていくのかに,心惹かれる部分があります。それとこのシリーズのもうひとつのサブストーリー,野上とアキの恋(?)の行方も気になりますし・・・(ううむ,シリーズキャラクターものの販売戦略に,きっちり絡め取られているなあ(^^;)。

97/06/06読了

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