本田緒生ほか『甦る「幻影城」II』角川書店 1997年

 「幻の名作」とサブタイトルのついた,本シリーズ第2巻は,戦前戦後,一時期ミステリ作家として活躍したものの,その後,歴史の奥底に埋もれ,「再発掘」された作家たちの作品を,計11編おさめています。いくつかの作品についてコメントします。

本田緒生「謎の殺人」
 元ボクサー,柔道部キャプテンの高校生…屈強な男たちが相次いで謎の窒息死を遂げた…
 魅力的な導入部の謎と,奇想天外な“真相”。一種の幻想ミステリなのでしょう。“真相”のシーンを映像化して想像すると,幻想的であり,また不気味でもあります。
地味井平造「人攫い」
 子どもたちの間で噂される“人攫い”,陽子はそれを“オゾ”と名づけた…
 少女の妄想と,現実的な誘拐(あるいは変質者)の恐怖が混じり合い,不思議な雰囲気を漂わせた作品です。オチがニヤリとさせられます。「恋人はサンタクロース」ってか?
瀬下耽「やさしい風」
 同棲相手が赤ん坊を残して姿を消した。“彼”はどうにもわずらわしく…
 緊張感あふれる作品です。最後の最後で,ホッとさせられ,またタイトルの意味が得心できます。本作品集では,一番楽しめました。
香住春吾「暗い墓場」
 深夜の公園で,中年女性の奇妙な死体が発見された。容疑者の浮浪者は,すでに死んでおり…
 大阪弁で展開されるこの物語は,悲惨で暗鬱なストーリーにも関わらず,どこか軽妙な雰囲気があります。ラストの一文は,大阪弁だからこそ,味わい深いのでしょう。標準語だったら,思いっきりギスギスしたと思います。
狩久「らいふ&です・おぶ・Q&ナイン」
 数人のもとに届けられた一通の奇妙な葉書。それは差出人本人の死亡通知だった…
 作者自身が作中の主人公となり,自分自身の葬式を出す,といった,なんとも人を喰った話です。その意図をめぐる参列者たちの推理も,なんとも現実離れしたぶっ飛んだもので,苦笑いさせられます。でもって,一見“理”に落ちたように見えて,もうひとひねりするところも楽しめました。
新羽精之「天童奇蹟」
 戦国時代,日本にキリスト教を伝道しに来た神父は,偽の奇蹟で信者を増やそうとするが…
 「策士,策におぼれる」というお話。オチはちょっとありがちですが,冒頭の,「奇蹟の復活」シーンが,独特の言い回しで雰囲気があります。むしろどこか邪教めいた感じさえあります。

98/01/11読了

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