高木彬光『現代夜討曽我』光文社文庫 1998年

 曽我十郎・五郎兄弟のもとに届いた一通の脅迫状「曽我兄弟に告ぐ。工藤家八百年の怨念。いまや,刃は血を求めている」。有名な鎌倉時代の曽我兄弟の敵討ち,その相手の名は工藤祐経。その復讐劇が現代に蘇ったのか? しかし富士の裾野で殺されたのは工藤を名乗る男の方だった・・・。

 『黄金の鍵』『一,二,三−死』『大東京四谷怪談』に続く「墨野隴人シリーズ」の4作目です。前3作は,もう10年以上前に読んでいたのですが(内容はすっかり忘れていますが),光文社文庫でのシリーズ再刊を機に,未読の作品(これとシリーズ最終作『仮面よ,さらば』)を読んでみることにしました。この作者の作品を読むのはじつに久しぶりです。

 物語は,鎌倉時代の曽我兄弟の復讐劇をベースとしながら,現代の曽我十郎・五郎兄弟の周辺で起きる殺人事件の謎がメインになります。なぜ脅迫状の届いた曽我兄弟ではなく,敵役(?)の工藤が殺されたのか? 脅迫状に秘められた意図とはなにか? 脅迫状を出した人物と殺人者は同一人物なのか? などなどの謎が提示されます。それをめぐって,語り手である“わたし”こと村田和子や,その友人たちがさまざまな推理を繰り広げていく,そして後半,事件は新しい局面を迎え,最後に墨野隴人によって事件の真犯人が指摘される,という,きわめてオーソドックスな展開です。本格ミステリとしてきっちりまとまった作品ではないかと思います。
 ただ,実をいうと,最初の方で真犯人が見当ついてしまったのです。あまりに見え見えの伏線がばっちり引いてあって,すぐ気づいてしまいました。途中は,もうその「眼」で物語を読むものですから,「あ,これも伏線,あれも伏線」という感じ,はっきりしなかった動機も,事件の背景が浮かび上がる過程で,推察できてしまいました。結末も「やっぱり」という真相,結局ミステリとしては楽しめませんでした。ですから,作中,主人公が「複雑な謎だぁ」といい,墨野隴人の推理を「天才的だぁ」と言うのが,どうしても鼻白んでしまいました。

 またこのシリーズのもうひとつの味付けは,“メリー・ウィドウ(陽気な未亡人)”である主人公と,謎の企業アナリスト・墨野隴人とのラヴ・ロマンスなのですが,どうもこういった金持ち同士の恋というのは,気取っていて,いまいち感情移入できませんでしたねぇ。

98/05/04読了

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