小林泰三『玩具修理者』角川ホラー文庫 1999年

 『パラサイト・イヴ』とともに,第2回日本ホラー大賞の短編賞を受賞した作品の文庫化です。「目玉」である受賞作より,同時収録のもう1編の方がおもしろかったです(笑)。

「玩具修理者」
 「どうして,いつもかけてるんだい,サングラスを?」男の問いに答えて,女は語り出す・・・子どもの頃に出会った“玩具修理者”の話を・・・どんな玩具でも修理してしまう不思議な“玩具修理者”の…
  一種独特の粘液質な神経質な語り口で語られる「女」の奇妙な過去。子どもの目を通して描写される,稚拙であるがゆえに,よりおぞましさを増す体験。性別年齢不明,それどころか人とも異形ともつかぬ“玩具修理者”(彼の叫ぶ“言葉”は,思わず「にやり」とさせられます)。そして“玩具”を“修理”する際の,グロテスクでいて,奇怪な美をも内包した情景。「生物」と「非生物」とをめぐる歪んだ議論。全編に,息が詰まるような緊張感をたたえた作品です。
 また用意されたふたつの「オチ」のうち,ひとつは,ホラー小説の作法にのっとったオーソドックスなもので,予想できる部分はありましたが,もうひとつの方は,その視覚的イメージと相まって,「ぎくり」とする驚きをともなった怖さがあります。
「酔歩する男」
 ある夜,スナックで出会った男が言った。「わたしは,あなたが知らないあなたの親友なのだ」と…
 前作で用いられた粘液質な文体が,この作品でも採用されており,モチーフとの親和性もあり,より効果を上げているように思います。
 前半で,男が語る「わたしとあなた」の大学時代のエピソード―手児奈(てこな)という奇妙な名前の少女をめぐる三角関係のエピソードは,さながら堂々巡りの,出口のないような会話や描写が続き,読んでいるものに倦みとともに,どことない不安感を与えるように思います。そしてそこで刷り込まれた「倦み」と「不安」は,後半の“男”が巻き込まれた(と主張する)地獄―「時間地獄」とでも言いましょうか―と共鳴しあい,増幅されていきます。「繰り返し」や「出口なし」は,まさにこの作品そのもののメイン・モチーフであり,それを描き出す文体そのものとうまくマッチしていて,主人公の不安感―作品の狙い目―を的確に表現しています。
 それゆえ,読んでいて冗長さを感じましたが,じつは,その冗長さと感じられる部分こそが,この作品が喚起する「怖さ」や「不安」の質を体現していると言えるかもしれません。

98/04/29読了

go back to "Novel's Room"