折原一『冤罪者』文藝春秋 1997年

 12年前,連続女性暴行殺人事件で婚約者を殺されたフリーライタ五十嵐友也。彼のもとに,獄中にいる,その事件の“犯人”から無実を訴える手紙が届く。手紙の内容と面会の感触から,五十嵐は“冤罪”の可能性があると考え,再調査を開始する。だがそれが,ふたたび彼を悪夢のような事件の渦中に投げ込むこととなった・・・。

 「憎悪と欲望,狂気と悪意の仮面劇」といった趣のあるこの作者の「○○者シリーズ」です。
 けっこう評判のいい作品ではありますが,う〜む,「ちと長い,長すぎる」というのが読後の第一印象です。
 物語は「第一部 暗闇裁判」「第二部 騙し絵」の2部構成です。
 「第一部」は,「中央線沿線連続女性暴行殺人事件」の内容と,その“犯人”として逮捕された河原輝男の手紙をきっかけに再調査に乗り出した五十嵐が描かれています。河原の「自供」をめぐって,警察・マスコミ側と,河原および「支援者グループ」側との捉え方の齟齬が丁寧に(しつこいくらいに(笑))描き出され,「はたして河原は犯人なのか?」という謎が浮き彫りにされていきます。そして意外な手がかりの再発見により,暴行殺人事件の裁判は急転直下,被告に無罪判決が言い渡されます。
 ここらへんは,幾重にも折り重なるようにして提示される謎―この段階でははっきりとしない謎―が,物語に独特のリズムを与えていて,それなりに楽しめます。ただこの長篇1冊分はゆうにある「第一部」がじつは「前振り」なんですよね。ですから,このあたりですでに少々息切れしてしまいました(笑)。
 そして「第二部」,釈放された河原は,社会復帰できないもどかしさや,獄中結婚した妻・郁江との不仲などから,しだいに荒れすさんでいきます。そして河原が暴行殺人事件の真犯人として疑わない元刑事や,被害者の会の瀬戸田らが,執拗に河原を追います。とくに瀬戸田は,インターネット上でホームページを開き,河原の一日の行動を逐一公開するという,狂気にも近い執念で河原を監視します。煮詰まっていく状況の中で,ふたたび惨劇が始まります。つぎつぎと殺されていく事件関係者たち,犯人はやはり河原なのか? それとも別にいるのか? 物語は意外な真犯人の登場でエンディングを迎えます。
 このラストも,例によって(といったら失礼かな?),「語り手」や「主語」をはっきり明示しない文体で,読者を翻弄するものです。そこらへんはこの作者のお家芸といった感じですが,「なんで,こんなに長くする必要があったの?」という気持ちが抑えられませんでしたねぇ。長い作品を読み終わったときの充実感よりもむしろ疲労感の方が大きかったです,正直なところ。
 それと毒々しい感じのする登場人物たちに感情移入できないことも,疲れた要因なのかもしれません。まぁ,この作者の作品の場合,誰が犯人で誰が被害者なのかさえわからないような錯綜したプロットを作風とするだけに,仕方ないといえば仕方ないのですが・・・。

98/08/23読了

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