ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』ハヤカワ文庫 1996年

 2013年,恐竜絶滅の原因を調査するため,タイム・マシンに乗って,6500万年前におもむいた古生物学者の“わたし”ブランディと地質学者・クリックスは,そこで言葉を話す恐竜に出会う。それは,恐竜の脳に寄生したゼリー状生物の発する言葉だったのだが,そのゼリー生物とはじつは・・・

 翻訳作品の,翻訳タイトルというのは,出版社や編集者がつけるものなのでしょうか? それとも翻訳者なのかな? そこらへんはわかりませんが,本書の翻訳タイトルは秀逸なもののひとつと言えましょう。原題は“End of an Era”,つまり『ひとつの時代の終わり』という少々愛想のないものです。それを,内容を鑑みて,このようなタイトルをつけたのには,センスの良さを感じます(単に,タイトルに惹かれて買った自分に対する言い訳か?^^;;)。

 SFにあまり詳しくはないわたしから見ても,SFでお馴染みのネタを満載した「欲張り」な作品という印象が強い作品です。まずは「時間旅行」。でもって,時をさかのぼって「恐竜絶滅の原因を探る」というところも,先史時代最大の「謎」ということで,「定番」のひとつなのでしょう(といっても,わたしが思い出せるのは星野之宣『ブルーホール』くらいしかないのですが・・・(^^ゞ)。
 そして主人公たちは,6500万年前の地球で異星人に遭遇するという「ファースト・コンタクト」を遂げるわけですから,「時間もの」と「異星人もの」とがドッキングしています。さらに「時間旅行」は,そのネタとは切っては切り離せない,もうひとつのネタに結びつきますし,さらに「異星人もの」は,これまたSFではお馴染みのあるテーマへと発展していきます(ネタばれになるので,詳しく書けないところが歯がゆいですが^^;;)。
 しかし,この作品のすぐれている点は,それらの多彩なネタを単に詰め込んでいることにあるのではなく,むしろそれらを有機的に結びつけて,ストーリィを展開させているところにあるのでしょう。物語の終盤,「時間旅行」「恐竜絶滅の謎」「異星人」などなどが相互に絡み合いながら,事態の全貌が明らかにされていくところは,冒険小説的なテイストも加味されていて,ミステリの謎解きを読んでいるような,小気味よさ,痛快感が感じられます。ラストのオチもいいですね。
 さらに付け加えるならば,この作品の魅力は,作者の巧みなストーリィ・テリングに負うところも大きいのでしょう。ストーリィは,「秒読み―○」と名づけられた,太古の地球を舞台にした章とともに,その合間に「境界層」と題された章が挿入されます。「境界層」の主人公も“わたし”なのですが,「秒読み」で「過去の地球」にいるはずの“わたし”は,「現在」「過去の地球で自分が書いた日記」を読み,混乱します。いったいどちらの“わたし”が「本当」なのか? この謎が強力な牽引力となっていると言えましょう。
 ひとつひとつのアイデア,そのアイデアのコンビネーション,そしてそれを巧みなストーリィ・テリングで語ること――SFとして云々ではなく,エンターテインメント小説としての秀作ではないでしょうか。

 ただわからなかったところがひとつあるんですよね。それはネタばれになるので,反転させておきます。既読の方,あるいは「ネタばれでもかまわないよ」という方は,下の部分を,マウスでドラッグしてください。
 つまり,過去の“わたし”は,どのようにして「現在」の“わたし”に日記を渡すことができたのか? ということです。わたしの読み落としでしょうか?

00/03/20読了

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