黒川博行『カウント・プラン』文春文庫 2000年

 大阪を舞台にした警察ミステリ5編を収録した短編集です。いずれも,緊張感あるストーリィ展開と,どこかのんびりとした大阪弁の会話とのバランスが絶妙な佳品です。

「カウント・プラン」
 スーパー・エイコー富南店に送られてきた脅迫状。富南署の捜査一係が乗り出すが…
 「1996年日本推理作家協会賞短編部門賞」受賞作です。何事も計算しないと気が済まない福島富南署捜査一係の捜査が交互に描かれ,警察ミステリの常套とは言え,ストーリィに緊迫感を与えています。そして伏線がきっちりと生きている,ラストの意外な着地が楽しめます。本集中,一番楽しめました。
「黒い白髪」
 坊主が葬儀屋を負傷させた。そして被害者の車からは奇妙なものが発見され…
 一見,単純な事件に見えながら,しらを切り続ける容疑者,発見された奇妙なもの…と,冒頭に謎が提出され,ストーリィを引っぱっていきます。この作品も伏線がうまく引かれていますね。それにしても,普段よく見かける「もの」が,犯罪に使用しうるというところは意外ですね。
「オーバー・ザ・レインボー」
 少女が誘拐された。犯人は“赤い鳥”を持っていることを目撃され…
 犯人の側と警察側とが交互に描かれるという点で,オーソドックスな警察ミステリといったところです。クライマックスでの緊張感がたまりません。また色に執着するサイコの犯人像がユニークですね。たしかに「あ〜ゆ〜こと」をする人の感覚は,異常に敏感になるそうですが・・・
「うろこ落とし」
 親友を刺し殺した女性。それは正当防衛のように見えたが…
 警察の捜査の過程で,つぎつぎと新しい事実が明らかにされるストーリィ展開は,さくさくと読んでいけます。それが犯人と被害者の「親友」によって明らかにされるところは,なんだか皮肉っぽいですね。「うろこ落とし」も巧妙な小道具となるとともに,どこか意味ありげなタイトルですね。ただもうちょっと伏線がほしかったところです。
「鑑」
 ラヴ・ホテルで殺された娼婦。捜査線上に,ダスト・ハンティングの男が浮かび上がるが…
 この作品集には,ふたつの流れが交互に描きながらサスペンスを盛り上げ,なおかつそこにもうひとひねりを加えた作品がいくつか収録されていますが,この作品もそのひとつです。ダスト・ハンティングのキャラクタ造形は,ぞくり,とするものがあるとともに,そこから導き出されるエンディングは,アイロニカルでいいですね。

00/04/20読了

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