若竹七海『クール・キャンデー』祥伝社文庫 2000年

 7月20日,夏休みを目前に控えた中学生“あたし”渚の元に,良輔兄貴の奥さん・柚子さんが死んだという報が入った。彼女はストーカー田所浩司にレイプされ,それを苦に飛び降り自殺をはかり,入院していたのだ。そして彼女が死んだ,ちょうどその頃,田所もまた“事故死”した。良輔兄貴を疑う警察に対して,“あたし”は無実を証明するため奔走しはじめる・・・

 この作家さんは,やはり,「若さ」というか「幼さ」ゆえの「無神経さ」や「悪意」あるいは「辛辣さ」を描かせると,じつに心憎いばかりの巧さがありますね。読む方としても,「思い当たるフシ」があるだけに(笑),照れとも,苛立ちとも,懐かしさともつかぬ,不可思議に入り乱れた感情を喚起させられます。しかしそういった「無神経さ」「悪意」「辛辣さ」は,同様に「若さ」「幼さ」ゆえの単純さ−良かれ悪しかれ−があって,へんにひねこびたものにならず,どこか痛快さ,爽快さを併せ持ったものとして描き出しているところも,この作者の技量のひとつなのでしょう。

 さて物語は,兄嫁柚子を自殺に追いやったストーカー田所浩司が,事故とも殺人ともつかぬ状況で死に,その夫,つまり主人公の兄良輔に殺人容疑がかかる,というところから始まります。渚は,兄の無実を証明するために,せっかくの夏休みをつぶして奔走する,と展開していきます。そのメインに,主人公の街で多発する痴漢事件や,上に書いたような,辛辣さをもった友人関係を挿入することで,テンポ良くストーリィを展開させていきます。
 そして,ラストで明かされる「事件の真相」も,ちょっとアンフェアかな?とも思いつつ,この作家さんらしいツイストで楽しめました。また,それを受けての「大円団」は,作中に挿入されていた別エピソードを上手に再構成しており,「お話作り」の卓抜した筆力を十分に発揮していると言えましょう。最後の最後に爆発する「爆弾」は,「ほっ」としたところの足元をすくうだけのショッキングさを持っています。まぁ,この作者でよく見かける「後味の悪さ」に拒否反応を起こされる方もおられるかもしれませんが,さまざまなエピソードを巧みにまとめ上げた「ウェル・メイド」な作品と評せましょう。

 ただ,ラストの処理を見ると,この作品は最初,短編として構想されたのではないかと想像します。

00/12/25読了

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