ダシェル・ハメット『探偵コンチネンタル・オプ』ハヤカワポケットミステリ 1976年

 ダイエー催し場の古本市。期待もせずに入ったら,赤川次郎と西村京太郎の間にはさまって「なんで俺がこんなところにいるんだ?」といった風情で売られていた1冊100円。もうけものです。ハードボイルドの巨匠ハメットが,コンチネンタル探偵社の名無しのオプ(“ぼく”)を主人公にした短編5編をおさめた作品集です。原本は1945年刊行,初出はいずれも1934年以前のようです。そのことを念頭に入れて読む必要があるようです。とくに表現とか・・・。

「シナ人の死」
 女流作家リリアン・シャンの家で起こった殺人事件。嫌疑を掛けられたリリアンは,自分の無実を立証するためコンチネンタル社に調査を依頼する…
 随所に挿入されるアクションシーン,二重三重のドンデン返し。とくに“ぼく”がチャン・リィ・チンに××を見せるところが,「あ,なるほど」と得心しました。なかなか楽しめた作品です。またチャン・リィ・チンと“ぼく”との,狸と狐の化かし合いのようなとぼけた会話が楽しいです。
「メインの死」
 ジェフリー・メインが自宅で殺され,2万ドルが盗まれた。しかし容疑者にはアリバイがあり…
 依頼者に対して明確に自分のスタンスを提示する,ハードボイルドな主人公のストイックな性格がよく出ている作品だと思います。また事件の真相は,本格ミステリに通じるものがあるのではないでしょうか。
「金の馬蹄」
 4年前に失踪した夫を捜し出してほしいと依頼された“ぼく”は,ティファナへ向かうが,その間に依頼人が殺害され…
 犯人との会話を通じて,自信たっぷりの相手の足下をすくい上げるような,ひねりのきいたラストが小気味よいです。主人公もなかなかの“ワル”ですね。
「だれがボブ・ティールを殺したか」
 探偵社の新人・ボブが射殺された。彼は横領の疑いがかかる人物を尾行していた…
 主人公の推理がすっきりしていて楽しめます。シンプルなタイトルがなかなかのくせものです。
「フウジス小僧(キッド)」
 札付きの悪党・フウジス小僧を尾行した“ぼく”は,事件に巻き込まれ…
 物語の2/3くらいは,あるアパートの1室で繰り広げられます。後ろ暗いところがありそうな女,単細胞のマッチョマン,悪党たちの虚々実々の駆け引き。事件のネタは途中で見当がつきますが,狭苦しい部屋の中での争いは緊迫感があり,ぐいぐいとストーリーを引っ張っていきます。また暗闇の中での,主人公の銃撃シーンは,とびきり緊張感があります。本作品集では一番楽しめました。それにしても作中に出てくるイネズという女,悪女としてはちょっと魅力が足りませんが,じつに憎々しいですね(笑)。

97/10/02読了

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