中島らも『ビジネス・ナンセンス事典』集英社文庫 1998年

 サラリーマンの生活をめぐるなにやかやを,「あ」から「ん」まで,計・・・計・・・・(ひとつ,ふたつ,みっつ・・・・<数えているらしい),計・・・計・・・・(77,78,79・・・<まだ数えているらしい),計90項目に分類して「解説(?)」したエッセイ集です。

 最初に読んだ中島らものエッセイは『こらっ』だったと思います。この作品は,タイトルからも想像できますように,作者が世の中で感じる,おかしいこと,変なことを「こらっ」と叱る(?)内容のエッセイでした。彼の目のつけ所や,「怒り方」にシンクロする部分が多く,またその洒脱な(死語)語り口に,いっぺんにファンになってしまいました。で,彼のエッセイ集を読みあさったのですが,『ガダラの豚』を,わたしとしてはめずらしく,新刊のハードカヴァで買って読み,「こ・・・このおっさんは,小説の方がもっとおもしろい!」ということで,今度は小説を中心に読むようになりました。
 というわけで,この作者のエッセイを読むのは,ずいぶん久しぶりです。

 さて本書は,作者の12年間のサラリーマン生活の経験を生かして(かどうかは定かではありませんが),日本のサラリーマンの「変なところ」をコミカルに,シニカルに,ときにはコント風に書きつづっています。なかには「おまえ,話つくってないかぁ?」というような内容もありますが(いや,別にあってもいいのですが),なかなかに鋭い指摘もあって,楽しめます。
 たとえば「オフィス・ラブ」という項目の,「夫婦になれば『めでたい結婚』で,そうでなければ『汚らわしいオフィス・ラブ』だというのは,いかにも建て前の好きな日本企業らしい物言いだ。」とか,企業のライフサイクル30年説というのがあると前振りして,停滞期に入った企業では「そのときに必要なのは,天動説をより精緻に高める人物ではない。いわば一人の狂人,一人のガリレイなのだ」という「地動説」など,思わず「ふむふむ」と頷いてしまう文章が多く見られます。
 また作者が招かれた某市の学生シンポジウムで,市会議員に“根回し”をして,市のホールでロックコンサートを開いた中学生に「中学生のくせに市会議員を使って“裏から根回し”するんじゃないっ。どうしてもロックを聴かせたかったら道でやれ,道で!!」と怒鳴るところなど(「根回し」),いかにもこの作者らしい持ち味が出ています(話をつくっている可能性もありますが(笑))。

 一番笑ったのが,某営業所の社員から本社への手紙という体裁をとった「左遷」で,厳寒の北海道で,クーラーを売る仕事を任されるという左遷以外のなにものでもない境遇にも関わらず,それでも会社に忠誠を尽くしているサラリーマンの姿が,おもしろ哀しく描かれています。

 ただ各項目3ページ,さらにひさうちみちおのカットがそれぞれに入り,実質2ページくらいという短さのためか,尻切れトンボのような印象が感じられる項目や,ぎゃくにあまりに作者の意見がストレートに出てしまった項目なども目につき,少々もの足りないところもありました。

98/03/26読了

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