西村健『ビンゴ』講談社ノベルズ 1996年

 新宿ゴールデン街のバー“オダケン”のマスターで,事件屋稼業も営む小田健に舞い込んだ4つの依頼。マンション住人の素性調査に,猫探し,ウィスキーの空き瓶探し,おまけに「公園をつくってほしい」。依頼を遂行すべく動き始めた彼の前に漂う,なにやらうろんできな臭い匂い・・・。政治家,暴力団組長,土建屋社長がたくらむ陰謀に,はからずも首を突っ込んだオダケンに迫る,凄腕の殺し屋の魔手!

 タフでホット,それでいてユーモア味ももつ主人公,美人で自立していて,知性もあふれるヒロイン,誇大妄想的で欲望丸だしの絵に描いたような悪役3人衆(“新宿帝国会議”(笑))。新宿地下街の爆破事件。バズーカ弾が飛び交い,サブマシンガンが吼え,手榴弾が舞う,丹沢山中での壮絶なバトル。オーストラリアから来た凄腕の殺し屋“ワディ”との対決。爆弾炸裂のタイムリミットまでのカーチェイス。そして思いっきり派手なクライマックス! 『ダイハード』『スピード』『ランボー』・・・,ハリウッド御謹製のアクション映画の世界を,そのまま小説に移し替えたのが,本作品です。前半はちょっともたつくところもありますが,地下街爆破以降は,もうクライマックスまでジェットコースター的にノンストップで驀進します。「翻弄される快感」とでも言うんでしょうか,読者はひたすら次から次へと繰り広げられる芝居っけたっぷりのアクションシーンを追うばかり。ただ,おそらく先に書いたようなアクション映画を意識した作風になっていますので,映像的な展開のスピードと,それを文章で読みとっていくスピードが一致せず,少々とまどうところもあります。それと,けっしてどの映画のどのシーンと特定できるわけではありませんが,「どこかで見たことのあるシーンだなあ」と思わせるところがけっこうあります。とくにクライマックスシーンは,ほとんど「お約束」といった感じです。それを楽しむか,パロディととるか,陳腐と感じるかは人それぞれでしょうね。わたしは笑いながら読んでいました。

 この作品には多くのマイノリティが登場します。主人公はアイヌの血をひき,ヒロインは在日朝鮮人,敵役の“ワディ”は,日本人とオーストラリア・アボリジニの混血という設定です。また舞台となっている新宿ゴールデン街そのものが,高度成長・バブル・都庁移転を経てその姿を大きく変貌させた新宿において,時代遅れの“マイノリティ”なのかもしれません。日本社会が,そしてその経済発展が,そういったマイノリティを(“同化”という名の下に)無視し,抑圧し,排除することによって成り立っている部分があることは,おそらく事実でしょう。そういった意味で,この物語を“マイノリティの叛乱”と読むこともできるのかもしれません。そういうところも最近のアメリカ映画によく見かける設定ですね。

 最後の内藤陳の解説(?)は,なんだか身内の身びいきという感じで,ちょっといやらしいですね(笑)。

97/05/04読了

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